エジプトでは新たな大統領を、選出する日が近づいている。いまの段階では、誰もがシーシ国防大臣の大統領当選が、確信されている。彼は今日明日にも、国防大臣職から辞任し、大統領選挙に立候補すると言われている。
何故これまで、シーシ氏は国防大臣職から辞任し、大統領選挙に立候補しないのか、とエジプトやアラブのマスコミで、取り沙汰されてきていた。事情通が言うには、同じ国防省からシャフィーク元首相や、サーミー・アナン元参謀長が立候補するのではないか、という懸念からだったと説明されている。そうなれば国防省は分裂し、シーシ国防相の当選が不確かなものになるからだ。
そうした雰囲気の中で、何故この時期にムスリム同胞団メンバーの、大量死刑判決が下されたのであろうか。流れからすれば、シーシ国防相の人気を下げることになる、危険なものであるはずなのだが。
マンスール大統領はつい最近、エジプトは徹底して、テロリストやイスラム原理主義者と、戦うと宣言した。これもまたムスリム同胞団メンバーに対する、徹底した対応を意味し、必ずしもシーシ国防大臣にとって、有利とは思えないのだが。
考えられることは次のようなものではないか。つまり、シーシ国防大臣が大統領に就任する前に、ムスリム同胞団に対する、明確なメッセージを発する。そして、シーシ国防大臣が大統領に就任した場合は、ムスリム同胞団が反政府の動きをすれば、力で抑え込むということを、伝えたということではないのか。
シーシ国防大臣が大統領に就任する前に、ムスリム同胞団問題に一旦決着をつけてしまう、ということであろう。そして、その次にはシーシ国防大臣が大統領に就任し、特赦の形で死刑判決の出ていた529人のうちの、大半を減刑するということではないか。
そして、そのうちの一部の者は無罪になるかもしれない。そうすれば釈放された者と彼の家族が抱き合う、歓喜の感動シーンが見られ、エジプトの大衆はシーシ新大統領の、温情政策を褒め称えよう。
エジプト国民はシーシ新大統領の、温情あふれる対応を歓迎し、ムスリム同胞団も同時に、シーシ新大統領を裏では支持することになろう。そこからシーシ大統領体制とムスリム同胞団との間で、妥協と和解の交渉が進むのではないか。
臨時政府はこれまで、ムスリム同胞団にも政治に参加する権利を、認めると言ってきている。つまり、黙って従えば悪いようになしない、ということではないのか。
シーシ国防大臣が新大統領に就任した後では、アメリカとの関係が重要課題であろう。アメリカ政府はこれまで、ムスリム同胞団を支援してきていたのだ。アラブ世界をかき回す上で、ムスリム同胞団は有効な武器だ、と考えていたからだ。
シーシ国防大臣もエジプトの要人たちも、そのことは十分わきまえている。シーシ特赦はカタールとエジプトとの関係も、修復していくことに繋がろう。すでにカタールからは、タミーム首長(国王)がエジプトとの、政治対話の用意があることを伝えている。これでカタールからエジプトに対し、サウジアラビアやアラブ首長国連邦、クウエイトなどと同じように、経済援助が行われるということであり、アメリカからの援助も始められる、ということではないのか。