2011年に起こった一連のアラブの春革命後、チュニジア、エジプト、リビアは、共に苦悩の時を過ごしている。いまアラブの春革命の渦中にあるシリアは、この先どうなっていくのであろうか。
誰もが知りたい今後であろう。そしてあれだけ磐石だといわれた各国の体制が、何故こうももろく崩れ落ちたのであろうか。その秘密を知るには、リビアが最も分かりやすい国のような気がする。
そしてリビアを例に引いて考えると、今後各国がどう変化していくかが、予測出来そうな気がする。リビアはある意味で典型的な国だったのであろう。カダフィという人物が作り上げた王国は、一瞬にして崩れ去ったからだ。
カダフィが革命を起こし、サヌーシー王朝を打倒したのは1969年のことだが、何故カダフィは簡単な蜂起で、王制を打倒で来たのであろうか。実は当時のリビアが、いまだに国家の体をなしていなかったことに、その理由があるのではないかと思う。
リビアのイドリス国王は革命が起こった時、確か不在だった。彼は歳をとっていたし、清廉潔癖な人だったと言われている。つまり国王はあまり国王の座にしがみつく性格ではなかったので、あっさり権力を放棄したのではないか。
他方、当時王制を維持していたリビア軍は、まだ正式な軍隊に成長していなかったのではないか。寄せ集められた人たちが銃を持っていたに過ぎず、王制を死守するといった考えは、彼らには無かったのであろう。
政府の役人たちも、リビアが独立から10年少ししか経っていなかったため、国家ということに対する明確なイメージを、持っていなかったのではないか。そのことがカダフィとその仲間の革命を、容易に達成させたのであろう。
革命後のリビアは、カダフィが試行錯誤の結果生みだした、ジャマヒリヤ(直接民主制)のシステムで運営されてきた。政府も首相も大臣も存在しないという国家の体制は、結果的に40年以上もの間、リビア国民に国民意識や国家というイメージを、明確なものにすることは無かった。
この場合もある意味では、リビア国民が存在する権力に対し、いつでも離別できる状況が、存在していたということだ。その離別を現実化させるには、外部からの介入と、ごく一部の勇気ある国民がいれば足りた。
そしてカダフィ体制は崩壊した。つまり、王制のリビアで革命が起こせたのも、その革命を起こしたカダフィ体制が崩壊したのも、外部からの介入と少数の勇気ある人たちの存在で、達成され得たということだ。
そしてその根本に横たわるのは国家意識、国民意識がいまだ未熟であった点にあるのではないか。リビア国民にしてみれば、自分の利益さえ守られれば、誰が権力を握ろうともかまわなかったのだ。
現在リビアを統治し始めた新政府は、そのことで苦しんでいるのであろう。明確なビジョンを示さない新政府の代表、外国の介入がリビアにどう影響を与えるのか不明確ななかで、リビアの各部族や地方集団は、自分たちの利益を守ることに必死であり、新国家の建設に向かおうとする者など、皆無に等しいだろう。
カダフィが置き土産とした大量の兵器、リビアの持つ膨大な地下資源が、リビア国内の各種の集団に力を与え、戦闘意欲を燃やさせている。そこにはルールなど存在しないのだ。
こうした状況にあるリビアを纏め上げるには、カリスマ的な人物の登場が待たれようし、その後には恐怖政治が必要なのかもしれない。それ以外に多くの集団を確実に纏め上げることは、容易ではないからだ。
いまのところ、リビアには英雄も独裁者も登場していない。そうであれば混乱は当分続くということだ。あえて期待を言えばカダフィの次男、サイフルイスラムの登場であろうか。
エジプトの場合はリビアに比べ、国家や国民意識が存在する。したがって、リビアよりは混乱のトンネルから抜ける時間が、短くて済むのではないか。それでもやはり、異なる多くの国民集団をまとめていくためには、英雄の登場が待たれよう。それがシーシ国防大臣なのであろう。エジプトでは大統領選挙に向けて、国民の多くが彼を支持しているのはそのためであろう。
チュニジアの場合は、資源が少ないことから建国以来、教育に重点が置かれて来た国であり、しかもフランスとの関係が深かった国だ。その意味ではリビアよりも、国家意識国民意識が進歩した状況にあるのではないか。
しかし、チュニジアはフランスの影響を受けたのであろうか。個人主義が強い国民性でもある。それぞれのグループが自分たちの考えを主張し、纏まり難い状態にある。この国でも英雄の登場が待たれているのではないか。
アラブの国々、その中でも地中海に面した国々は古くから異人種が混交して生活してきていた。そのために、国民の意識がなかなか単純には、纏まり難い。偶然と言おうか、アラブの春革命は地中海に面した国々で、最初に起こっている。しかし、各国の今後の足取りは、少しずつ異なるのではないか。その場合,各国の国家意識国民意識の強弱が、ポイントであろう。