『M・アッバース議長苦渋の決断なるか』

2014年2月23日

 

 大統領期間の第2期を迎えてなお、何の成果も生み出していない、アメリカのオバマ大統領にとって、パレスチナ問題は手ごろなテーマかもしれない。もしそう彼が考えたのであれば、浅はかとしか言いようが無いかもしれない。

 アメリカのケリー国務長官は、オバマ大統領の意向を受け、足しげくイスラエルとパレスチナを訪問し、双方に対し圧力をかけている。そのなかから妥協点を見出したい、ということであろう。

 イスラエルはケリー国務長官の、威圧的な外交に不審を抱いたのか、最近になって、極めて神経質であると同時に、自国の将来に不安を抱いているようだ。国内的には経済不信が広がり、国際的にもイスラエルに対し、入植地拡大問題などをめぐって、反発が広がっている。

 他方、パレスチナ自治政府も同様に、アメリカの強圧的外交に、どう対応すべきか戸惑っているようだ。そうしたなかから、マハムード・アッバース議長がパレスチナ難民の処遇をめぐって、きわめて重要な決断をするのではないか、という憶測が流れている。

 それはパレスチナ以外に居住している、パレスチナ難民の帰還の権利を、放棄するのではないかということだ。レバノン、シリア、エジプト、ヨルダンなどに住む、何百万人というパレスチナ難民が、イスラエル(パレスチナ)に帰還することになれば、イスラエル国内居住者の多数派はパレスチナ人、ということになってしまう。

 当然これはイスラエルにとって、受け入れられるものではない。そうではあっても、パレスチナ自治政府とマハムード・アッバース議長は、パレスチナ難民の帰還の権利を、放棄できないでいたのだ。それがまさにパレスチナ解放機構(PLO)のうたい文句であり、革命闘争の根本部分をなしていたのだから。

 だが、もし今後もパレスチナ自治政府が、パレスチナ難民の帰還権を堅持すれば、パレスチナ問題は前進できないのは明白だ。そうしたことから、マハムード・アッバース議長がパレスチナ難民の帰還権を、放棄するという憶測が流れ出したのであろう。

 この問題は、イスラエルをユダヤ人の国家として、認めるか否かに直結している。これまでマハムード・アッバース議長は、イスラエルをユダヤ国家と認めない、という立場を堅持してきたが、その裏には現在のイスラエルから追放されたパレスチナ人たちが、イスラエルがユダヤ人の国家と認められたとき、帰還できなくなるからだ。

 つまり、マハムード・アッバース議長が、イスラエルをユダヤ国家として認めるか否かは、同時にパレスチナ難民の帰還権を、放棄するか否かと一体なのだ。ネタニヤフ首相はその辺をよく理解していて、パレスチナ国家を認めるか否かは、イスラエルをユダヤ国家として認めるか否かと、表裏一体だと語っている。

 マハムード・アッバース議長はアメリカの圧力の前に、パレスチナ難民の帰還権の放棄だけを、結果的にしてしまうかもしれない。同時に、イスラエルをユダヤ国家として認めてしまうかもしれない。しかし、それはパレスチナ側にとっては,何の見返りも無いかも知れない。

ガザのハマースはこのあいまいな中での、パレスチナ難民帰還について放棄するわけにはいかない、とマハムード・アッバース議長に噛み付いている。それは当然のことであろう。あるいは、アメリカ・イスラエルと対峙する、マハムード・アッバース議長の擁護のための反発なのかもしれないが。