『『カダフィ体制後のリビアと欧米の思惑』』

2013年12月 3日

 

 2003年ロカビー問題はリビアとアメリカの合意で解決し、主犯とされたメグラヒ被告は、病気を理由に釈放されて帰国できた。た。その裏にはアメリカの思惑があったようだ。リビアの石油資金をどうやって吸い上げるか、ということだ。

 リビアではカダフィ大佐が、地中海に面するザーウイヤとミスラタの街を、香港や上海のような繁栄した自由貿易港に、しようと考えていたようだ。貿易地域、住居地域、そして観光の拠点にしようと、思っていたのだ。

 そのためには、莫大な投資が必要であり、その施設のほとんどは、欧米の企業が受注するというものだった。カダフィ大佐がどれだけの金を、外国の銀行や企業に投資していたかを考えれば、その一部でも巻きあげてやろうと思うのは、外国政府も企業も、当然のことかもしれない。

 このカダフィ大佐の考えは、次男のサイフルイスラーム氏も、賛成していたようだ。サイフルイスラーム氏はリビアを、もっと民主的で開かれた国にしたい、と考えていた。彼は『リビアの明日』計画を持っていたのだ。

 この計画を含め、カダフィ大佐と次男のサイフルイスラーム氏との間では、時折激しい口論もあり、そのたびにサイフルイスラーム氏は、全ての要職から身を引く、とカダフィ大佐に圧力をかけていた。

息子の中で一番まともな、サイフルイスラーム氏にそっぽを向かれたのでは、カダフィ大佐は不安になるからであったろう。そのためか、カダフィ大佐はサイフルイスラーム氏の意見を、渋々ながら受け入れるというケ-スが、たびたび見られた。

もう一人のカダフィ大佐の息子ムウタシム氏は、勇敢であり過激であったために、カダフィ大佐にかわいがられていたようだが、統治者向きではなかったようだ。彼と穏健なサイフルイスラーム氏との間では、意見の違いで衝突するケースもあった。こうしたことから、カダフィ大佐は後継者を決めずに、問題を放置していた。

さて問題は、カダフィ大佐が死亡しムウタシム氏も死亡したいま、これからリビアでは何が始まるのかということだ。サイフルイスラーム氏はズインタンで軟禁状態にある。ICCは彼を正当に裁判にかけるために、引き渡しをリビア政府要求しているが、リビア側はそれに応じていない。それはカダフィ財宝のありかを知っているのは、今ではサイフルイスラーム氏一人に、なったからであろうか。

サイフルイスラーム氏はズインタンで、厚遇されているものと思われる。それは彼がカダフィ―資金のありかを、知っているからに他ならない。そして彼が創った『リビアの明日』組織には、多数のインテリが集められていた。だが彼等はまだ動き出していない。時期が来れば、このリビアのインテリ集団が、サイフルイスラームの下に、集結する可能性があろう。

最近になって、カダフィ支持の残党が動き出したという情報が、断片的ではあるがリビアから流れてくるようになった。リビア国内がばらばらであり、連邦制にした方がいいという意見も、だいぶ前から出始めている。

こうした状況に対し、リビアの主要部族は現状に満足していない。宗教組織もしかりだ。こうなるとサイフルイスラーム氏が再台頭し,リビアを一つに纏めて欲しいという声も、リビア国民の間から出てくる可能性がある。

結局のところ、今のリビアにはサイフルイスラーム氏しか、国全体を纏め切れるスーパー・スターは、いないのかもしれない。もし、今後サイフルイスラーム氏の出番が無ければ、リビアは欧米諸国によって、食い尽くされるのではないのか。

フランスはズインタンの部族に接近し、イギリスとアメリカはリビア政府に接近し、ドイツやイタリアもリビアとの関係強化に向けて、動き出している。花(石油ガス)がある国の宿命であろうか。今はサイフルイスラーム氏の、再登場が待たれる。