『中東諸国2014年の予測』
;エジプト
先日、エジプトの2014年を、予想した記事を書いた。危機感が足りない、中東世界はそう簡単な状況ではない、とお叱りを受けるかもしれないが、2014年の後半には、エジプトには一定の落ち着きが、戻るのではないかと思っている。
その最大の理由は、ムスリム同胞団の動きがこれまでとは異なり、思うようには行かなくなってきたからだ。ムスリム同胞団の幹部は皆、逮捕投獄され裁判に掛けられている。残ったムスリム同胞団のメンバーは、指導者の無いままに、自暴自棄とも言える行動に走っており、大衆の反発が強くなってきている。
加えて、ムスリム同胞団の資金は、組織も個人も凍結され、使えない状態になっている。そのことは大衆動員が、出来なくなっているということだ。そのうえリーダー不在が原因し、アズハル大学での放火事件で説明したように,ムスリム同胞団のメンバーではない者の蛮行に対して、ムスリム同胞団は自分たちの組織とは関係ない、と言えないでいる。バスに対する放火も然りであろう。
ムスリム同胞団の内部では分裂が始まっており、強硬路線を主張する者もいれば、今の時期は穏健路線をとるべきだ、と主張する者もいる。つまり、現在のムスリム同胞団は、組織の体をなさなくなっている、ということだ。
他方、世俗派の臨時政府は、新体制を正式に設立する方向で、着実なステップを踏んでいる。新憲法を制定し、1月には国民投票に掛け、それが多数の支持を得て発効され、次いで国会議員選挙が実施され、その後には大統領選挙が行われる予定になっている。新大統領が選出される今年半ばには、エジプト社会はほぼ落ち着いた状態になる、と考える根拠はそこにあるのだ。
:シリア
シリアの場合はどうであろうか。シリアもまた2014年半ばごろには、一定の落ち着きを、取り戻すのではないだろうか。アメリカのオバマ大統領が、アサド体制打倒のための、軍事行動をあきらめたときから、風向きが変わっている。
それまで反体制派を支援していた、サウジアラビアやカタールが援助を渋り始めているし、アメリカも以前ほど真面目には、支援しなくなってきている。そうした流れのなかで、計算が狂ったのがトルコであろう。トルコは気が付いたときには、他の反体制派支持国が、だいぶ後ろにいたということのようだ。
反体制派支援という名目で、サウジアラビアなどが集めた傭兵は、ジハード戦死(聖戦の戦士)などといった立派なものではなく、ほとんどがギャング集団と変わりない。敵側の人間を簡単に殺害し、内臓をかじって見せる者までいた。これでは世界の国々は援助を渋って当たり前であろう。
反体制側に送られる武器や資金は、こうしたよそ者の手に多くが渡り、シリア人で結成した、FSA(自由シリア軍)にはあまり届かなくなっているようだ。外人傭兵による残虐行為が目立つにつれて、一旦はシリア軍から離れたシリアの将兵が、ここに来てシリア軍に復帰する動きが始まっている。自国を外人傭兵から守らなければならない、と真剣に考える者が増えてきているからであろう。
そのような流れから、2014年の中頃には、シリア情勢はシリア政府側に、きわめて有利な状態に、なっているのではないか。
:イラン
イランについて予測すれば、既にヨーロッパ諸国が、ジュネーブ会議での進展を踏まえ、積極的にイラン接近を進めている。アメリカでは親イスラエルの議員たちが、イランに対する制裁強化を叫んでいるが、オバマ大統領はその時期ではない、とかろうじて新たなイラン制裁を、押さえ込んでいる。
この流れは、余程のことが無い限り、変わらないのではないか。イスラエルは今後も、イラン攻撃を口にしながら、アメリカにも働きかけるだろうが、ここまで来ては、それも無理であろう。イランの革命以来、34年にも渡るイラン制裁の結果、イランではインフラ、設備、航空機、機械等あらゆるものが、故障しあるいは老朽化している。それは、イランが巨大な市場になっている、ということだ。しかも、イランの石油埋蔵量は制裁を受けたこともあり、相当量が残っている。一説によれば、スイング・プロデゥーサー役を務めたサウジアラビアの石油埋蔵量は、2600億バレルから既に1000億バレル程度まで、減少しているとも言われている。
巨大なマーケットとしてのイラン、石油の大埋蔵国としてのイラン、膨大なガス資源の存在するイランは、いまや欧米諸国にとっては、食べ頃ということではないのか。
:トルコ
トルコはどうであろうか。トルコのエルドアン体制は、最初の10年間は飛躍的な発展を遂げることに成功した。周辺諸国との関係も大幅に改善され、まさに善隣友好外交の、見本のような国になっていた。
しかし、権力の長期化は腐敗を生み出す。トルコのエルドアン体制も例外ではなかった。イスタンブールのゲジ公園を潰して、巨大なショッピング・モールを建設する話から、エルドアン体制側の閣僚や彼らの子息たちによる、汚職が露見し始め、今ではエルドアン体制そのものの存在が、危ぶまれるところまで来ている。
多分、これからせいぜい1~2ヶ月で、エルドアン体制は崩壊するのではないかと思われる。その後のトルコは、風通しがよくなり、一層の経済発展をしていくのではないか。この場合も2014年の半ばがその大きな節目となりそうだ。
つまり、中東諸国は2014年半ば頃から、全体的に改善の方向に向かうのではないか、というのが私の予測だ。例外は、これまでに危機的な状況に遭遇しなかった国々、ということになる。そう考えると、湾岸諸国にとっては、2014年は不安定な年、ということになるかもしれない。