ジュネーブでのイランの核施設に関する会議が、アメリカの主導で成功裏に終わった。これでイランは新たな制裁を受けることは、少なくとも当分はなかろう。同時に、イランの在外資産36億ドルの凍結が解除されるとあって、イランと多くの国々が喜んでいる。
それは30年以上にも渡って、イランが経済制裁を受けていたことから、多くのインフラや設備、石油ガス関連施設の補修と部品の調達、自動車、貴金属、機器、各種部品が不足しているからだ。つまり、イランは世界各国にとって、巨大な市場となっているのだ。
この状況下で唯一面白くない国は、イスラエルであろう。あえて加えれば、湾岸諸国であろうか。イスラエルに言わせれば、今回の合意はイランにしてやられたというものであり、イランがこれで核開発を止めるとは思っていない。それはイスラエル政府だけではなく、多くのイスラエル国民の正直な感想のようだ。
サウジアラビアを始めとする湾岸諸国は、イランの核兵器開発が進むだろうという不安を払拭できないし、これまでの制裁の中で、イランが自主開発した兵器も不安の種であろう。そして今後イランが元気を取り戻せば、ますます中東地域でのイランの存在感が増す、ということも問題であろう。
そこでイスラエルはこれからどう動くのか、ということが気にかかる。フランスのファビウス外相は『イスラエルがイランを攻撃することはあり得ないだろう。』と語っているが私も同感だ。ネタニヤフ首相が強硬発言をし、イラン攻撃の可能性をほのめかししているのは、あくまでもイランと西側先進諸国に対する、警告に過ぎないのではないか。
それではそれでイスラエルはおとなしく、6ヵ月後のイラン核再会議の結果が出るのを待つだろうか。イランと西側諸国との合意が、きちんと履行されているかどうかを検討する会議が、6ヵ月後に予定されており、その段階でイランは西側先進諸国との合意不履行となる可能性が高い、とイスラエルは踏んでいるのだ。
それまでの間にイスラエルがしそうなことは、シリアへの攻撃、レバノンへの攻撃そして入植地の拡大ではないだろうか。シリアへの軍事攻撃は来年2月のジュネーブ会議で、シリア問題の平和的解決が討議されることになっており、これまでもが成功したのでは、イスラエルはますます苦しい立場に立たされよう。そこでシリアの反政府派を支援する、攻撃を加える可能性は否定できまい。
レバノン攻撃についてはシリア攻撃よりも簡単であろう。レバノンではヘズブラがシリアの体制側に立って戦闘を展開しており、攻撃を加える理由は十分にある。しかも、反撃されても損害は軽微だと踏んでいるのではないか。
残るパレスチナ西岸地区での入植地の拡大については、十分にありうる話であろう。世界も、イスラエルをなだめるために、あまり厳しく入植活動を、非難することはないのではないか。特にアメリカはイスラエルに対し、今回のイランの核合意で負い目を感じているだろうから、実質的には黙認するものと思われる。割を食うのはパレスチナ人であり、パレスチナ自治政府ということであろう。それはパレスチナ自治政府に対するパレスチナ人の不満を増大し、パレスチナ自治政府とマハムード・アッバース議長の立場が、揺らぐということだ。