『エルドアン首相の言動は暴走ではないのか』

2013年11月10日

 トルコのエルドアン首相の強気の言動が、これまで大きな反響を呼んできている。ダボス会議でのペレス大統領への暴言は、結果的にアラブ諸国首脳の賛同を受けることが出来、彼は中東地域で一躍スター的存在になった。

 彼の政府が掲げる近隣諸国との友好関係の促進も、ダボス会議発言以後、成功したかに見えた。その甲斐あってトルコの企業は、中東諸国に大躍進を遂げ、トルコ経済は飛躍的な拡大もした。

 述べるまでもなく、エルドアン首相の活動は、広くトルコ国民から支持を受け、選挙では50パーセントを超える支持を、獲得するようになった。しかし、このことが彼に大きな勘違いを、させることになったのではないか、と思えてならない

 エルドアン首相は事ある毎に、自分対する国民の支持は高いと語り、選挙による勝利は、民主主義の勝利だと豪語した。つまり、種々の問題が存在したとしても、その政府が国民の投じる票数で、多数を獲得できるのであれば、それは正しい政府だという判断だ。

 そのエルドアン首相の過剰な自信に対して、最初にトルコ国内で反発が起こったのは、イスタンブール市内にある市民の憩いの場ゲジ公園を壊して、巨大なショッピング・モールを建設する、という計画に対する反対デモだった。

 警察による強硬な対応が、反対デモの火に油を注ぐ形となり、次第に拡大していった。その状況を危険と判断したギュル大統領とブレント・アルンチ副首相は、デモ参加者に対し『メッセージは受け止めた、警察は過剰だった。』と陳謝した。

 しかしエルドアン首相は『何がメッセージだ、デモは2~3日でひねりつぶす。』と豪語した。その発言後はゲジ公園問題が、全国規模に広がっていくこととなった。政府の警察を使った強硬対応は、デモを鎮静化させたが、その反発が消えたわけではない。強制的に沈静化された後も、トルコ各地でデモが頻発しているのだ。

 次に、エルドアン首相が強硬対応をしているのは、エジプトの第三革命後に出来た、新政府に対する対応だった。この第三革命をエルドアン首相は、あくまでも軍事クーデターだとして、エジプトの臨時政府を認めようとしていない。そればかりか、いまだにモルシー前大統領を支持し続けている。結果はトルコ・エジプトは破滅的な関係に至った。

 加えて、つい最近起こったエルドアン首相の、大決断問題がある。それは『同じ建物の中に若い男女が住むことはよくない、廃止すべきだ。』というものだった。これは若い男女が同棲するということではなく、同じビルの別々の部屋に住むことが問題だと言っているのだ。

 さすがにこの発言に対しては、ブレント・アルンチ副首相がテレビ・インタビューで否定的発言を行っている。そのブレント・アルンチ副首相の発言に対して、テレビのインタビュアーがエルドアン首相に意見を求めると、『テレビを通じては答えない。直接話し合う。』と切って捨てている。

 イスラム教の預言者ムハンマドの時代には、現在のような集合住宅は存在しなかったろうから、この問題はエルドアン首相が、イスラム的道徳に基づいて語ったとしても、イスラム法のシャリーアでは正当化出来まい。

 エルドアン首相の自信過剰は、結果的に外部に敵を増やし、内部の国民の間にも敵を増やし、ついには、開発公正党(AKP) 結党当時からの盟友をも、敵に回すことになっている。

 こうなると、来年のトルコ大統領選挙は、複雑な構図の中で行われることになることは、いまからでも予測できそうだ。エルドアン首相の大統領立候補に対して、どれだけの国民が彼に対して支持の票を投ずるのか、疑問が沸いてくる。もし落選した場合に、彼は『投票の結果は正当なものだ。』と潔く認めるだろうか。