カタールは湾岸の小国でありながら、膨大なガス埋蔵量を持つ国であるために、同国の中東地域政治に与える、政治的影響は少なくない。また、同国が運営するアルジャズイーラ・テレビは、センセーショナルをアラブ世界に、巻き起こしてきた。
その時々の問題の、賛成派と反対派の側に立つ当事者が、同席して激論を交わすという、いままではアラブ世界にはない手法を、番組の中に取り入れたのだ。そのため、アルジャズイーラ・テレビの討論番組では、出演者同士が殴り合いにまで、発展することも少なくなかった。
そのことが同放送局の自由さを示すものとして、アラブ諸国では絶賛の拍手を浴びていた。しかし、アラブの春革命を前後して、アルジャズイーラ・テレビは他のアラブ諸国の内政に、深く関与し始めた。つまり、アラブの国で起こる革命騒ぎを、あおる役割を果たしたのだ
アルジャズイーラ・テレビの放送を見ていると、あたかもカタールという国家は、自由な表現が西側諸国並みに、許されているような印象を与えるのだが、実態はどうも違うようだ。同国では表現の自由が、厳しく制限されているということだ。
そのことが世界的に知られ問題化したのは、つい最近の事のようだ。国連人権委員会がカタール政府に対し、表現の自由が脅かされていると警告を発した。それは一詩人に対する政府の対応を巡ってだった。
ムハンマド・アジャミという名の詩人が出した『ジャスミンの詩』という本が問題になったのだ。この本は2011年に出版されたが、当時はアラブ諸国でアラブの春革命が、盛んな時期であった。
ムハンマド・アジャミ氏は詩を通じて、湾岸諸国の体制を批判したのだ。何処の国も叩けばホコリが出るのは当然なのだが、自由という点では、湾岸諸国は他の国に比べ少し遅れているのであろう。サウジアラビアではいまなお、女性の運転が認められていないのだから。
ムハンマド・アジャミ氏は結果的に15年の刑を言い渡され、現在刑務所に投獄されている。彼の弁護士で元法相だったナイミ氏は、彼に対する判決は、せいぜい5年の受刑が、妥当な線であろうと語っている。
問題は何故いま、カタール政府が彼を、15年の刑に処したのか。そして、何故それを国連人権委員会が取り上げて、大きな問題にしたのかということだ。その裏にはしかるべき原因が、あるような気がしてならない。
2カ月ほど前に、ある友人が『これからカタールは不安定化するそうですよ。』と語ってくれていたことが気にかかる。カタールの利用価値が、ある国にとって下がったということであろうか。