中東諸国の中にあって、イスラエルは孤立した存在であり続けてきたし、現在もその状態にある。周辺のアラブ諸国は押し並べて敵であり、カーテンの裏側での接触がある国もないではないが、それは限定された範囲だけだ。
そうした孤立するイスラエルにとって、トルコは1950年代から深い関係にあった国だ。その理由は多くのトルコのエリートたちが、ユダヤ人であることによろう、学者の世界や政治家、財界人の中には、ドンメと呼ばれる改宗ユダヤ人ムスリムが多数いるのだ。
彼らが裏でトルコとイスラエルとの関係を、支えてきたということであろう。つまりトルコは、イスラエルと深い関係にある国なのだ。ところがトルコはかつて大国(オスマン帝国)であったために、多くの周辺諸国の人たちを自国人として抱え込んでいる。クルド人は当然であり、東ヨーロッパ人も少なくない。
そのなかには、イラン系のトルコ人も含まれている。今年トルコで人気を博した歴史ドラマは、18世紀ごろの実話をもとにしたもので、ドラマではペルシャの意向を受けた人物が、オスマン帝国皇帝の側近として働き、多くの情報をペルシャ側に流すと共に、政策にも影響を与えていたというものだった。
そのドラマが現在の状況に、似ているためであろうか。トルコ国民は強い興味を示して、このドラマを見ていたらしい。現在もイラン政府に近い人物が、トルコの政府の上層部にいるということだ。
いまトルコとイスラエルとの間で、大問題が発生している。それはトルコを舞台にして接触していた、イスラエルのためのイラン人スパイが、危険な状況に陥っているのだ。その理由は、これらイラン人スパイの名が、トルコ国内で公表されてしまったからだ。
常識的には、イスラエルとトルコの情報部が深い関係にあったことから、このようなことは闇で処理されるのが普通であろう。それが表ざたになったのは、誰かがトルコとイスラエルとの関係を、完全に破壊すること狙って起こしたものだ、ということであろう。
実はイスラエルのために働く、イラン人スパイ10人の名前を公表したのは、トルコの情報長官(MITのトップ)であるフェダン・ハカン氏なのだ。もちろんそれはエルドアン首相の許可無しに、やったとは思えない。
それではエルドアン首相はイスラエルよりも、イランとの関係を重視している、ということなのか。それは石油・ガスのためなのか、エルドアン首相の政治信条によるものなのか。そしてこのフェダン・ハカンなる人物は、ドラマの登場人物と同じ、イランからの回し者なのか。これからが見ものだ。