アラブはひとつ、アラブの連帯、アラブは兄弟などといった、美辞麗句が通用していたのは、70年代の初めまでであろうか。それ以後は、アラブ各国が独自の方針を抱えて、国造りを進めてきている。
しかし、有名無実になったアラブの連帯が、昨今のアラブの動乱の中で、意図するかしないかに関係なく、姿を見せている。それは内戦から逃れる難民が、周辺のアラブの国々に入って行き、そこで一時的に定着するという形でだ。
古くはパレスチナの難民が、レバノン、シリア、エジプト、ヨルダンなどに流入し、流入された側の国々は、それを拒否出来なかった。流入したパレスチナ人はその後、大半は難民として生活するものの、一部は巨万の富を持つようになりもした。
今回のシリアからの難民はいまのところ、ヨルダンとレバノンが一番受入数が多いようだが、それ以外にもトルコやイラク、エジプトなどにも流入している。その数があまりにも多いことから、流入された国の国境に近い町では、現地の住民よりも難民の数の方が多くなる、という珍現象も起こっている。
それはまだ笑って済まされるのだが、通常でも仕事が少ないところに、難民が入ってくると、彼ら難民はレバノン人の半分の賃金でも、働くようになる。結果的にレバノン人と難民との間に、対立が生まれる危険性が、高まるということだ。
レバノン政府はいま、これまでいたパレスチナ難民に加え、今回は大量のシリア難民を抱え込んでいるわけだが、この難民対策のための資金が、膨大な額に達している。福利厚生サービスなどに、レバノン政府は自国民に難民を加えると、21億ドルもの出費を余儀なくされているらしい。
そればかりか、シリア内戦の影響と、戦闘のレバノン域内への影響、難民の流入などによる混乱で、レバノン政府は75億ドルもの経済的損失を、出したという報告もある。
今の状態に対し、国際社会が手を差し伸べなければ、レバノン国内でレバノン人対シリア難民の戦闘が始まる危険がある。レバノンはご存知の通り、キリスト教各派、スンニー派、シーア派といった宗教各派が存在し、彼らはそれぞれにヘズブラのような、私兵を抱えているのだ。
シリア難民とレバノン人の対立が起これば、シリア難民もシーア派とスンニー派に別れ、レバノンのそれぞれの派と、連携することになろう。そうなると、レバノン人とシリア難民との、小競り合い程度では済まされない危険性がある。
レバノンは最初にパレスチナ難民を抱え込み、今度はシリア難民を抱え込んで、苦労を背負わせられるということか。