エジプトのムスリム同胞団政権を、打倒に導いた主体であるタマッロド組織が、アメリカ軍に兵器を搬送する船舶の、スエズ運河通過阻止を呼びかけた。このことは、これから大きな問題に発展するかもしれないので、お伝えしておく。
タマッロド組織はモルシー政権打倒を、エジプト国民に呼びかけ、最終的にはモルシー前大統領が獲得した大統領選挙での得票数、1300万票を大きく上回る、2200万の署名を集めることに成功した。
エジプト軍がクーデターを起こした、という評価をする人たちもいるが、実はこのタマロド組織の運動なしには、軍は動くつもりが無かったのだ。今年の6月の段階で、私がカイロの軍や警察の幹部に会ったなかで聞いたのは、反政府側(反モルシー大統領)が一定の署名を集めることが出来、大きなデモを6月30日に開催することに成功すれば動くが、そうでなければ動かない、というものだった。
結果は2200万の署名が集まり、開放広場(タハリール広場)には、2011年1月25日の革命時と、変わらない数の参加が見られた。エジプト軍や警察はこれで安心して、行動を起こせると考えたし、ムスリム同胞団とタマッロド組織が主導する、世俗派国民との衝突が起これば、相当数の死傷者が出るということで、行動を起こしたのだ。つまり、エジプト軍や警察は、初めから『クーデターありき』で考えていたのではなかったのだ。
これだけの行動力と動員力を示したタマッロドが、いまアメリカ軍への兵器搬送船舶のスエズ運河通過阻止を、叫び始めたということは侮れまい。タマッロドのメンバーも、他の一般のエジプト国民も、誰もアメリカ軍のシリアへの攻撃を、望んではいないのだ。
イラクへのアメリカ軍による攻撃は、結果的にイラクという国家を、完全に破壊し、悪魔の時間10年間を経過させた。この期間に犠牲になったイラク国民の数は、百万人を優に超えているのではないのか。
タマッロドのスポークスマンは『シリア軍を支援するのは義務だ』と語っている。それはエジプト国民が、今回のタマッロド運動で、軍の蜂起によって成功することが出来たことに、よるのかもしれない。
このエジプトのタマッロドの動きは、他のアラブにも波及する可能性があろう。パレスチナ、湾岸諸国の一部の国民、北アフリカのアラブ各国でも、同じような動きが起こり、欧米在住のアラブ人が行動を起こした場合、アメリカはそう易々と、シリアに手を出すわけには、行かなくなる可能性もあろう。
あるいは、そうした状況が起こることを、オバマ大統領は内心では、待っているのかもしれない。彼の発言にはどうもシリア攻撃を、したくないニュアンスが、含まれているようだ。『2,3日程度の限定攻撃』『アサド体制は打倒しない』『国連の様子を見る、、。』『米議会の意向を見てから、、。』などがそれだ。