『ハンス・ブリックス氏を覚えていますか?』

2013年8月30日

ハンス・ブリックス氏を覚えていますか?』多分何人かの人たちは彼の名を覚えているだろう。彼はイラク戦争が始まる前に、国連の大量破壊兵器査察団長として、イラクに乗り込んだ人物だ。

 彼は勇敢にも、アメリカやイギリスの意向を無視して、真実を世界に伝えた。『イラクには大量破壊兵器はない。』と。しかし、当時のアメリカのブッシュ大統領とイギリスのブレア首相は、彼の調査結果を無視して、イラクに対する軍事攻撃を実行したのだ。

 戦争が済み、イラクで大量破壊兵器の調査が再度行われたが、何処からも大量破壊兵器は出てこなかった。あるいはそれに類したものが出てきたとしても、それはアメリカがイラクに提供したものだったかもしれない、真偽のほどはすでに、闇の彼方に消えて無くなってしまった。

 そのハンス・ブリック氏が、久しぶりに今回また発言を始めた。彼に言わせれば、オバマ大統領もブッシュ大統領と変わりない、ということのようだ。国際社会では一定の国に対する、軍事攻撃が認められるのは、あくまでも自国に明らかに危険が及ぶ場合と、攻撃されたことに対する、報復だということだ。

 しかし、今回のシリアの場合を取ってみると、シリアに対する軍事行動の急先鋒に立っている、アメリカもイギリスもシリアから自国に対する、軍事的な脅威を受けていないし、軍事攻撃を受けているわけでもない。

 したがって、安全確保のための軍事攻撃も、報復ための軍事攻撃の正当性も成り立たず、アメリカやイギリスがシリアに対して、攻撃を加えたとすれば、それは『蛮行』という一語で、示されることになろう。

 そもそも、アメリカは日本に対し核兵器で、攻撃を加えた国であって、他の国が毒ガス兵器を使用したとしても、それを非難する資格はない、というのがハンス・ブリックス氏の立場のようだ。

 現段階では、アメリカでもイギリスでも、シリアに対する軍事攻撃は、議会が許さないという状況のようなので、一安心できよう。ヨーロッパの幾つかの国々も、明確にシリアに対する、軍事攻撃に反対している。

 アメリカが世界の警察として、君臨したいのであれば、アメリカが正義の側に立っていることが、その最低条件であろう。今回のシリアの場合はどう考えても、シリア政府が化学兵器を使ったとは思えない。

 そうだとすれば、公正な()国連の査察団の、調査結果を踏まえたうえで、初めてシリアに対する何らかの制裁が、話し合われるべきであり、やみくもに軍事行動に入るということは、許されるべきではあるまい。