エジプトには半官半民紙とデモ呼ぶべきか、アルアハラームという新聞がある。したがって、この新聞は極めて政府に近く、その報道内容は、信頼に値すると言っていいのではないか。もちろん、報道される内容の中には政府の宣伝も、多分に含まれてはいるのだが。
最近になって、そのアルアハラーム紙がムスリム同胞団と政府が、秘密交渉を始めたと報じた。その秘密交渉でムスリム同胞団は、逮捕者の釈放、公正な裁判の実施、資産凍結の解除といったことを、交渉の前提条件にしたということだ。これに対し政府側は、ムスリム同胞団側が社会サービズを中心に活動をし、国家の利益に貢献することを条件としたようだ。
もちろん、このアルアハラーム紙の報道については、疑問を挟む専門家たちもいる。それはムスリム同胞団内部で、決定に携われる高い地位の者たちが、ほとんど逮捕され投獄されており、政府側と交渉をできる、高い地位の人物がいないからだ。
他方、新政府はムスリム同胞団を解体したい、と思っているわけであり、現段階でムスリム同胞団が、復活出来ることにつながりかねない、交渉をするわけがないという見方だ。
確かに、ビブラーウイ臨時首相はムスリム同胞団を、完全に締め出す方針を、8月17日の段階で語っている。しかし、その後のエジプト国内の状況をみると、いまだにモルシー前大統領支持者たちによる、デモが継続されており、テロも発生している。
そこで政府側は、ある程度の活動の余地を与えることにより、ムスリム同胞団を懐柔しよう、ということではないか。加えて、政府側の妥協的なポーズはムスリム同胞団内部に、分裂を助長する可能性もあろう。すでにムスリム同胞団内部には、穏健路線と強硬路線の二つの流れが、生まれているということだ。
先に、バデーウ師が逮捕された後で、後継者と目されて話題に上った、ガザにいるイッザ師は、あまりにも強硬な路線を採るということで、ムスリム同胞団内部から彼のトップの座就任は、否定されたという情報もある。
正直なところ、ムスリム同胞団内部に分裂が起こることはあり得ようし、そのなかからは、強硬派と穏健派が出てくるのは当然であろう。ムスリム同胞団が生き残っていくためには、地下に潜るか穏健な表情を見せるしかあるまい。
以前、ムスリム同胞団の活動方針が手ぬるいとして、分離したメンバーが結成したガマーア・イスラーミーヤは、サダト大統領を暗殺した後、ほぼ壊滅されている。強硬派たちはまたその轍を踏むのか、穏健派の政府との妥協が生き残るかのいずれかだ。