トルコのエルドアン首相は、自分がオール・マイテイだ、とでも思っているのだろうか。混迷するエジプトの調停案を出したようだ。その案は政府に近いトウキッシュ・スター・デイリー紙に掲載された。
このトルコの調停案は、5項目からなっているようだが、それは次のような内容のようだ。
:モルシー前大統領を釈放する。
:ムスリム同胞団メンバーの逮捕を中止する。
:メデイアの活動に自由を与える。
:ムスリム同胞団メンバーの受刑者を釈放する。
:ムスリム同胞団と警察軍の衝突をやめる。
第一番目のモルシー前大統領の釈放だが、これは不可能であろう。エジプトの新政府はデモ時に死者が出たのは、モルシー前大統領とムスリム同胞団の最高幹部たちに、責任があるとしている以上、裁判なしに釈放することはできまい。
第二番目のムスリム同胞団メンバーの逮捕を中止することは、実質的に無理であろう。ムスリム同胞団のメンバーの中には多数いまだに、新政府と軍に対し、抵抗テロ活動を展開しているのだ。
第三番目のメデイアに対する、活動の自由を認めることも、決して容易ではあるまい。アラブの春に始まる一連の政治変動の中で、アラブを代表するアルジャズイーラ・テレビと、アルアラビーヤ・テレビはそれぞれに支持色を強くし、偏向報道を繰り広げてきたからだ。
アルジャズイーラ・テレビはアラブの春革命をあおり、白む原理主義政権が誕生することを即した。エジプトのムスリム同胞団府がその典型であろう。他方アルアラビーヤ・テレビは反ムスリム同胞団の立場を貫き、ムスリム同胞団政権がエジプトに誕生した後、アルアラビーヤ・テレビのスポンサーであるサウジアラビア政府は、エジプトのムスリム同胞団団政府に対し、びた一文援助しなかった。
述べるまでもなく、トルコが主張するメデイアの活動の自由は、アルジャズイーラ・テレビの報道に、自由を与えろということだが、アルジャズイーラ・テレビはムスリム同胞団支持であり、エジプトの新政府とは、真っ向から敵対している。
第4番目のムスリム同胞団メンバーの釈放については、いまだに取り調べも裁判も終わっていないのだから、釈放できるわけがない。取り調べも裁判もなく釈放すれば、ムスリム同胞団が最初の革命時に行った、刑務所破壊とそれによる脱獄と、同じような状況になろう。社会的に犯罪やテロが激増しよう。
そして第五番目のムスリム同胞団と警察軍の衝突を、中止するということも、同じように不可能なことだ。エジプトの新政府は今、一日も早く安定した社会を生み出そうとしているのであり、デモやテロを放置するわけにはいかない、他方ムスリム同胞団は出来るだけ新政府の成功を、阻止しなければならない立場にあるのだ。
つまり、多分トルコの、エルドアン首相の取り巻きインテリ連中が考えたであろう調停案は、何の意味もなさないということだ。それどころか、トルコのアラブ世界における、いい意味での影響力を、削いでいく結果になりはしないか。