『化学兵器殺害とミサイル殺害の違いは』

2013年8月25日

 

 国連の査察団がシリアに入り、化学兵器使用に関する調査を行うことになった。国連の査察団がシリアに入国すると、タイミングよくシリア政府が、軍に命令を下し、化学兵器を用いてシリア国民を多数殺害した、というニュースが伝えられた。

 私の常識からすれば、シリア政府がこんなにもタイミングよく、化学兵器を使用するとは、とても考えられないのだが、世界中の常識ある人たちの間には、シリア政府軍が化学兵器を使用した、という認識が定着している。

 国連の化学兵器査察団が、やがて結論を出すだろうが、多分あいまいなものになるのではないか。つまり、化学兵器をシリア軍が使用したのか、反体制派が使用したのか断定できない、というものになるのではなかろうか。

 こうすることによって、国連は中立公正である立場を一応維持し、世界の国々の信頼を維持し続けることが、できるということだ。しかし、『国連の化学兵器査察団がシリアに入った』ということと、そのタイミングで『シリア国民の多くが化学兵器の犠牲になった』という事実は、結果的にシリア政府軍が化学兵器を使用した、というイメージを世界に定着させるのではないのか。

 以前にも書いたが、嘘も百篇言うと本当になるのだ。『国連』『シリア政府』『化学兵器』という三つの単語がマスコミで踊れば、その三つの単語は何時の間にか、ニュースの受け手の頭のなかで、ひとりでに文章を構成してしまうのだ。

 そうなると、幾つかの主要国がシリア非難に回り、シリアに対する軍事攻撃を実行し、化学兵器の使用を止めさせよう、ということになる。既に幾つかの国は軍事行動に向けて、動き出している。

 その結果は述べるまでも無い、化学兵器によって殺害された、といわれている人数の、何十倍何百倍のシリア人が、殺されることになるのだ。

 かつてイラクでは、サダム・フセイン大統領が独裁者であり、非人道的な行いをしており、イラクはサダム・フセイン大統領の指揮下で、核兵器や化学兵器を製造しているといわれた。

 その報道が何度も繰り返されているうちに、世界の人たちの脳内にその言葉が定着し、それぞれが文章を構成していくことになるのだ。そこから出てくる結論は『サダム・フセイン大統領は非情で危険な人物であり、国民を苦しめ化学兵器や核兵器を製造して、周辺諸国の人たちも殺害するつもりだ。』ということになる。

 刷り込み効果の恐ろしさを知るべきだ。やがてシリア国民を大量に殺害するための、国際的な正当性が生まれてくるのだから。