『中国の辮髪を思い起こさせるエジプトの昨今』

2013年8月23日

 だいぶ前に、中国の歴史の本で読んだのだが、中国では頭髪を長くすることが奨励された辮髪時代と、そうでない時代とがあった、と書いてあったような気がする。その時その時の、権力者の意向を受け入れない者は、とんでもない罰を受けたという話だったと思う。

 今のエジプトには、中国の辮髪に似たような話がある。それは最近失脚したムスリム同胞団の政権の時代には、顎鬚を伸ばすことが奨励されていた。それは述べるまでもなく、ムスリム同胞団のメンバーが、顎鬚を伸ばしていたことによる。

 ムスリム同胞団のメンバーは、イスラム教の預言者ムハンマドが顎鬚を伸ばしていた、という故事にならって、顎鬚を伸ばすことが奨励されていたのだ。顎鬚を伸ばすことは、イスラム教では義務になってはいないが、スンナ(行った方がいいとされる、預言者ムハンマドの慣行)と位置付けられている。

 ムスリム同胞団のメンバーであるモルシ-氏が、大統領の座から引きずり降ろされた後は、ムスリム同胞団メンバーと世俗派の国民が、衝突していることや、軍警察によってムスリム同胞団メンバーが、逮捕されていることなどから、ムスリム同胞団のメンバーではないが、いままで顎髭を伸ばしていた人たちが、生活の便宜上顎鬚を、剃り始めているということのようだ。

 女性もしかりであり、女性の場合には目だけを出し、他はすっぽり隠す服装(ニカーブ)をしていた人たちが、次第に顔をあらわにするように、なってきているということだ。

 ある男性は、自分の顎鬚を剃ったことについて、なぜ顎鬚を剃ったのか、と問われたのに対し、『検問所を通過するときに警察や軍人が、ムスリム同胞団と疑って、厳しい取り調べをするからだ。』と答えている。

確かにそうであろう。取り締まる警察や軍の側からすれば、ムスリム同胞団のメンバーが、自爆テロをする危険性があることから、それと似た格好をしている人に対しては、ことのほか厳しい対応をしよう。

女性の場合はアバーヤという、身体全体を包む服装に、顔をすっぽり包む服装となれば、その服の下に機関銃や他の武器、爆発物を隠し持っている、危険性もあろう。当然のことながら、軍人や警察は彼女らも、厳しいチェックの対象とすることになる。

エジプトはアラブ世界の中で、これまで開放的な国と認識されてきていた。もちろん一旦地方に出かけると、昔ながらの服装とライフ・スタイルが残ってはいるのだが。それが今では時の権力によって、少なからぬ影響を受けるという現状は、さみしい限りだ。