インテリ外相ダウトール博士は、近隣諸国との間に横たわる外交問題を解決し、善隣友好外交を展開すると高らかに宣言した。それは一時期まで成功していたのだが、ここに来てほとんどの善隣友好関係が崩壊しているかに見える。
シリアとの関係はかつて素晴らしいものであり、シリア政府がエルドアン首相に名誉博士号を送って、関係促進を願っていた。しかし、トルコが反政府派を支援するようになり、部分的な武力衝突も起こることによって、この関係は崩壊した。シリアにとってトルコは許せない敵国に豹変したのだ。最近になって、シリア政府はエルドアン首相に送った、名誉博士号を剥奪すると発表している。
そのシリアを支援するイランとの関係でも、トルコは大きく後退している。イランはトルコの抱えるクルド問題の核心である、PKK(クルド労働党)に対する支援を送ることにより、トルコを窮地に追い込もうとしている。
イラクとの関係でも、トルコはイラクを分裂させるような外交を展開していた。それが北部クルド地区自治政府との関係を強化して、クルド地区を独立国にしていく構想であったろう。その目的はエネルギーの確保であった。
しかし、最近クルド自治区のバルザーニ議長が、バグダッドを訪問しマリキー首相と話し合ったことは、今後の関係が前進するということなのではないのか。この関係変化の裏には、アメリカの動きがあったのだ。
ロシアとの関係では、トルコのシリア反体制派支援が響いている。もともとロシアはトルコにとって、歴史的に仇敵関係にあったのだが、それでも経済関係は良好であった。
しかし、ここに来てロシアは政治的に冷たい関係を、経済面にも拡大していく可能性がある。それは、ロシアがシリアのアサド体制を、支持しているからに他ならない。
ヨーロッパ諸国との関係では、トルコが熱望し続けてきたEU加盟が、全く希望を抱かせない状況なっている。なかでも、エルドアン首相のイスタンブールのガジ公園開発が原因で起こった、デモ隊に対する強行対応は、ドイツのメルケル首相を激怒させている。
湾岸諸国との関係も、エジプトで起こった第二革命から軍の台頭を、エルドアン首相が非難したことで、完全に立ち居位置を異にした。湾岸のサウジアラビアやクウエイト、アラブ首長国連邦などは、ムスリム同胞団の危険性を嫌い、新政府誕生とともに、120億ドルにも及ぶ巨額の、資金供与を決定しているのだ。
そのことは、トルコの湾岸諸国との経済関係を、後退させていくことになるのではないのか。すでに、湾岸諸国はエジプトに対する、政府による支援に加え、民間企業のエジプトへの投資交渉が、熱くなってきているのだ。
トルコにとって一番危険なのは、アメリカやヨーロッパ諸国との関係が、今後どうなっていくかであろう。すでに記した様に、EUとの関係は後退している。アメリカとの関係も決してよくはない。エルドアン首相のガザ訪問に対して、ケリー長官は『勝手にしろ』と言っているのだ。
エルドアン首相はガジ公園デモに際し、『悪いやつとは交渉しない。』と言ったが、いま彼自身が国際社会で『悪いやつ』と言うレッテルを貼られているのではないのか。悲惨なのは国民だ。