『エルドアン首相の鼻息は荒いが危機が迫っている』

2013年7月20日

 

 トルコのエルドアン首相は、率直にものを言うことで、中東地域での人気を獲得してきていた。その際たるものは、ガザ侵攻後にダボス会議で、イスラエルのペレス大統領を怒鳴ったことであろう。

 イスタンブールのタクシム広場で起こったデモ隊に対しては、なんら妥協することなく、力でデモを蹴散らす作戦を取った。その力による対応は、一応デモを蹴散らすことが出来たが、その後デモは全国に広がっている。

エジプトで起こった第二革命で、友好関係にあったモルシー政権(ムスリム同胞団)が打倒されると、エジプトの新副大統領に就任した、エルバラダイ氏との会見を、エルドアン首相は拒否した。

こう並べると、エルドアン首相の強気で力による政策が、成功しているように思えるのだが、いま余り表面化していない幾つもの難問が、トルコを苦しめ始めているのだ。

第一に挙げられるのは、エジプトやサウジアラビアの港で、トルコの貨物船が寄航出来なくなっている。このため湾岸諸国向けの主に食料が、海の上で寄航待ちをさせられているのだ。冷凍施設が付いていても、やはり問題であろう。その原因は船主が料金を支払っていないことが、主な理由のようだが、政治的な意味合いもあるのではないか。

第二には、シリア北部のクルド人たちが、シリアとトルコの国境地域に、解放区を設けたということだ。そこにはトルコを長期にわたって苦しめてき、たPKK( クルド労働党)のゲリラたちも、入って行く可能性があり、シリアのクルドとPKK との共闘が始まれば、トルコは対応が苦しくなるだろう。

そのことは、現在良好な関係にある、イラクのクルド政府との関係にも、影響を及ぼすのではないか。北イラク、北シリアそしてトルコ東部のクルドが、一体となって動き始めたら、トルコ政府にとってはまさに悪夢であろう。

もうひとつのエルドアン首相の抱える難問は、エジプトの軍が動いてモルシー政権を打倒した例を見て、トルコの軍隊が立ち上がらないかという懸念だ。エルドアン政権は上手に、軍を骨抜き牙抜きにしたようだが、軍内部には自分たちがトルコを守る、という意識はいまだに強く残っていよう。

その軍が行動を起こすか否かは、トルコ国内の反エルドアンの動きが、どこまで拡大していくかにかかっていようし、PKK,北シリアのクルドの動きが、活発になったときであろう。

エルドアン首相がこうした難問の存在を、知らないわけはない。彼の強気の発言の裏には、大きな不安があるのかもしれない。