『エルバラダイという人物は首相になれるのか』

2013年7月 7日

 

 エジプトでは第二革命が成功し、次の首相に誰が就任するのか噂されている。そのなかで、最も有力な候補とされているのが、エルバラダイ氏だ。述べるまでもなく、彼はIAEAの事務局長として長年勤めた、国際的に知られる人物だ。

 しかし、アドリー・マンスール臨時大統領は、彼をまだ指名していないようだ。それはサラフィストのヌール党などが、反対しているからだといわれている。しかし、そればかりではなさそうだ。エルバラダイ氏の人柄がいまひとつ、エジプト国民をして彼を首相に就任させる意欲を、削いでいるようだ。

 エルバラダイ氏はエジプトの出身ではあるが、28年にも及ぶ外国生活を送っており、エジプト人の庶民感覚が、全く無くなっているらしい。それでも権力志向だけは、他の誰をも抜いて強く、自分から反政府のリーダー、とアピールしてきていた。

 しかし、反政府のリーダーにふさわしい人物は、彼以外にも何人もいた。ナセリスト党のサッバーヒ氏はハンサムであり、若手で大衆受けする人物だ。そして弁舌もさわやかであり、若者の支持があろう。

 アラブ連盟の事務総長を務め、それ以前にはエジプトの外相を勤めた、アムル・ムーサ氏もなかなかの人物であり、エジプト国内やアラブ世界ばかりではなく、世界的にも知名度が抜群に高い。

 そして、今はアブダビに亡命しているが、大統領選挙で次点となったシャフィーク氏もいる。彼はムバーラク政権最後の首相を務めた人物であり、元は空軍の出身だ。

 これら3氏の知名度、頭脳の明晰さ、エジプト的人柄は、軽視出来まい。なかでも、軍の支持を考えた場合は、シャフィーク氏がアブダビから戻って、首相に選出される可能性を否定できまい。もちろん彼の場合は、正式な大統領選挙に立候補するため、今回は首相の座を、狙わないかもしれない。

 エルバラダイ氏が庶民的ではないことは、外国生活が長く、エジプト人の庶民感覚を、忘れている点にあろう。それを物語るエピソードがあり、そのエピソードは多くのエジプト人の、知るところとなっている。

 ある日、エルバラダイ氏は、将来の自分の立場を得ることも計算してか、自宅でパーテイを開いたそうだ。

 多くのエジプトを代表する人たちが、このパーテイに招かれたのであろうが、9時を回ったころから、エルバラダイ氏は自室に入って、出てこなくなった。どうしたことかと側近が彼に尋ねると、彼は「私は9時には寝室に入ることにしているんだ。」と答えたというのだ。

 エジプトでは、パーテイの主催者は、パーテイの最後までお客さんをもてなすのが、礼儀なのだ。そのことで、エルバラダイ氏は多くの客から「彼は外国人だ。」と冷ややかに、陰口を言われたということだ。

 その国にはその国なりの、種々のしきたりがある。それを忘れて自分の勝手に振舞うようでは、大衆ばかりか政府の高官も、付いては来るまい。エルバラダイ氏が万が一首相に就任することがあれば、閣内から厳しい批判にさらされる日も、やがて来るのではないか。