エジプトのムスリム同胞団政権が崩壊した。これを軍事よるクーデターと捉えるか、アムル・ムーサ元アラブ連盟事務総長が言ったように、大衆の混乱を避けるために、軍が立ち上がったと見るかは、人によって異なろう。
ただ言えることは、あのまま放置すれば、多数の犠牲者が出ることは、確かであったろう。ムスリム同胞団と世俗派が衝突すれば、数十人あるいは数百人の、死者が出ていたことであろう。
現段階では、ムスリム同胞団が抗議行動を続けているが、日本のマスコミが報道しているような、危険な事態までは発展しないのではないか。つまり、ムスリム同胞団が武力によって、徹底的な抵抗をするとは思えない。それは相手が軍であり警察だからだ。
どんなにムスリム同胞団が武器を密かに手に入れていたとしても、プロの軍隊や警察には立ち向かえまい。しかも、ムスリム同胞団はモルシー前大統領を含め、最高指導者のバデーウ師までもが逮捕されているのだ。つまり、ムスリム同胞団の幹部は、みな人質になっているのも同然なのだ。
さてこのことは周辺諸国に、どのような影響をもたらし、エジプトにはどのような影響をもたらすのだろうか。ある友人がエジプトとトルコとの関係が悪化すると言ってきたが、これはエジプトには問題になるまい。なぜならば、ムスリム同胞団が失脚した後のエジプトに対しては、湾岸産油諸国が金を出すことが予想できるからだ。
逆に、これまでトルコに流れていた湾岸諸国の金が、エジプトに向かいトルコにとっては、好ましくない状況が生まれよう。だから、トルコ政府は今回のエジプトの政変劇を非難したのだ。しかし、その非難は問題をよりこじらせることになるのではないか。エルドアン首相の浅知恵ではないのか。
パレスチナにはすでに影響が出ている。今回のエジプトの政変劇の後、早速マハムード・アッバース議長はハマース解体を口にしている。これも少し性急過ぎるのではないかと思われる。
シリアでもやはり同じように、状況に変化があると考えるべきであろう。シリアの反政府のコア組織は、やはりムスリム同胞団だからだ。したがって、アサド大統領は希望を見出しつつあるのではないか。
ヨルダンの国王もシリアのアサド大統領と同じように、安堵しているものと思われる。ヨルダンでも最強の反政府の組織は、ムスリム同胞団なのだから。こうして考えると、エジプトで起こった政変劇は、中東地域の多くの国々に、少なからぬ影響を及ぼすということだ。