『エジプト社会は爆発前夜』

2013年6月20日

 大部書くことをためらったのだが、もう書く方がいいと判断したので、最近訪問したエジプトの内情を報告する。報告することをためらった理由は、エジプトの友人たちに対する、私なりの配慮からだった。

 今日のエジプシャン・デイリー・ニューズのブログ記事も書くことを促したのであろう。それによれば『アズハル大学トップがモルシー大統領のデモ阻止決定に反対』『ルクソール市長にムスリム同胞団政権が、ジハード・メンバーを指名』というのがあったからだ。

 ルクソール事件とは、ジハード・メンバーが起こしたテロ事件で、日本人も多数が殺害されている。そのメンバーをルクソールの市長にしたというのだ。

それ以外にもエジプト国内で、すでにムスリム同胞団と世俗派との暴力沙汰の衝突が、起こっているという記事もあった。ファイユーム県などがそれだが、そのほかの地域でも起こっているようだ。

実は財団内部のごく一部の人たちに出した報告に、私は次のような内容のことを書いた。その一部をご紹介しよう。

『エジプトのモルシー政権は内外の敵を相手に苦しい国家を強いられている。期待していたアラブ諸国なかでも湾岸諸国からの援助はほとんど実行されていない。例外はカタールだが、そのカタールも援助には何かと制約を設けている。

 サウジアラビア、クウエイト、アラブ首長国連邦などは、現在のエジプトの政権がムスリム同胞団によるとし、胞団への警戒感から援助を進める意思は、当分の間ないものと思われる。

結果的にエジプト政府は財政難が悪化の一途をたどり、元1ドルに対して5・5ポンド程度であった交換レートが、現在では1ドル=6・9906ポンドにまで下がっている。(闇ドル価格は8ポンドに近づいている)

そのためエジプト国内は輸入物価の値上がりに始まり、国内産品の値上がりも起こっている。砂糖や肉などの値上がりがひどいようだ。

国内の治安も全く改善されていない。それは警察が取り締まりを強化すれば、国民の反発を受け悪役になることを、嫌っている部分もある。デモなどでも以前に比べ、警察は取り締まりを手抜きするようになっている。

したがってエジプト国内は犯罪が増加し、外国からの観光客誘致もうまくいっていないし、企業の進出も進んでいない。結果は若者の失業率が上昇し、社会に不満が高まっている。

こうした状況を踏まえ、タマロドなるモルシー政権ボイコットの運動が始められ、16歳以上の国民対象にサインを集めることなっているが、現在集まった署名の1700万人弱という数字は、モルシー大統領が当選した時の1300万人を上回るものだ。

このタマロドの結果を受けて、6月30日には大規模デモが計画されており、 巷ではそのデモに参加するか否かが、大きな話題になっている。このことは公然と大声で語られているところをみると、政府の取り締まり能力は無くなっているということではないか。

その証拠に金曜礼拝に参加したモルシー大統領がモスクを出るとき、集まった礼拝者たちは口々にモルシー辞任を叫んでいた。それに不安を感じたモルシー大統領は、靴の片方をはかずに逃げ出したということだ。その状況は間もなくツイッターやフェイスブックで一般に流され、世人の知るところとなった。

モルシー大統領がエジプト国民を恐れている証として、警察の警護を外したことがあげられる。モルシー大統領は現在警察の警備隊を外し、大統領警護隊だけに警備させている。また、ムスリム同胞団幹部は、家族を外国に避難させ始めている、という話もあった。

6月30日の大衆デモには、警察や軍の幹部も参加するといわれているし、軍や警察はデモを阻止する動きには、出ないとも言われている。したがって、世俗派とムスリム同胞団派の衝突による、流血事態は避けられないかもしれない。

そうした事態に至り、しかもデモへの参加者が一定の数に達した場合は、軍が出動し事態を収拾させる、という考えがあるようだ。つまり大規模な大衆デモから、軍によるクーデターに移行するということだ。

世俗派が大規模デモを成功させ、軍がその後を受け止めてクーデターを起こせば、ムスリム同胞団とモルシー政権は失脚することになる。その後1~2年軍による統治がおこなわれ、その間に憲法改正などが進められ、正式な大統領選挙を行って、民政移管がなされるという筋書きを、描いている人たちがいる。

問題はムスリム同胞団が行う、6月21日25日デモの後、世俗派が6月30日にデモを計画しているが、その前の27日ごろから始まるだろうといわれている。その規模によっては、まさにここに述べたような事態が発生する、可能性があるということであろう。もちろんその通りにはならない可能性もある。

つまり、6月21日から7月3日~4日の間で、今後のエジプトがどうなっていくのかが、はっきりするということだ。』

* 軍や警察はムスリム同胞団本部ビルの警護を解く、と宣言しているし、大統領官邸の治安についても、責任を持たない方針のようだ。