『エルドアン首相は英雄か独裁者か』

2013年6月 5日

 CNNのウエッブサイトに、衝撃的なタイトルの記事が掲載された『エルドアンは英雄か独裁者か』まさにそうであろう。彼はそのいずれかであるか、あるいはその両方なのかもしれない。

 先週イスタンブールのタクシム広場で始まった、国民の反対運動はついにトルコ全土に広がった。これをトルコの春と揶揄するマスコミもある。

 そもそもの始まりは、歴史的に貴重な、タクシムの公園の樹木を切り倒して、そこに巨大なショッピング・モールを建設することを、政府が決定したことに対する、反対運動だった。この公園はイスタンブール子にとって、貴重な自然の場である。

 大都市ではいかにして緑地を確保、保護していくかということが、非常に重要であることは誰にも分かろう。そこでイスタンブール市民はこのショッピング・モール建設計画に、平和的な反対集会を始めたのだ。

 しかし、政府側は警察を送り込み、ペッパーの含まれた水を放水したり、催涙弾を大量に使って集会者を蹴散らそうとした。集会者たちはあきらめずに抵抗したために、多数の負傷者と逮捕者が出た。そのいずれも1000人を超えているということだ。

 警察側の負傷者の数も少なくないようで、一説によれば、デモ隊側よりも多くの負傷者が出ているということだ。

 ある外人のスポーツ・ライターが書いて、メールで送ってきてくれた記事によれば、いつもは対立関係にある、トルコの各サッカー・チームの応援団が、今回のデモでは一丸となって、政府に抗議行動をしたというのだ。サッカー・フアンが興奮すると、どれだけ乱暴になり危険かは、世界的によく知られるところだ。

 モロッコを訪問中のエルドアン首相は、どうも実情が把握できておらず、実感を持っていないようだ。『私が帰国すれば数日でけりがつく』と強気の発言をしている。しかし、トルコ国内に残った、ギュル大統領とアルンチ副首相は、ことの重大さを認識したようだ。

 ギュル大統領が最初に、政府側の強硬対応について詫びている。そして彼は『選挙の結果だけが民主主義ではない。皆さんのメッセージは受け止めた』と語ったのだ。つまり、エルドアン首相への選挙での支持がどれだけ多くとも、それだからと言って、何をやってもいいということではない、と彼は言ったのだ。

しかし、このギュル大統領の発言を否定する発言を、エルドアン首相はしている『ギュル大統領は何のメッセージを受け止めたというんだ!!』これではエルドアン首相には今回のデモに対し、妥協はしないということであろう。

 ギュル大統領はその後、アルンチ副首相を訪問し45分間に渡って、この問題への対処方法について、話し合っている。それだけ事は重大だということであろう。

 デモ隊は次第にエスカレートし、当初の公園潰しに反対するだけではなく『エルドアン首相は辞任しろ』と叫び始めている。エルドアン首相は帰国した段階で、どう事態を認識するのだろうか。

 デモはいったん収束したかに見えたが、その後全国に広がり、大手の組合がデモに参加することを決定し、ストを始めている。革命労働者組合や24万人の会員を抱える公務員組合などがそれだ。

 今回のデモに際して、与党であるAKP(開発公正党)内部に、明確な亀裂が生まれたということではないのか。これまでも与党内部では、エルドアン首相とその家族の汚職問題が、ささやかれていた。エルドアン首相が来年任期を終えた後で、大統領に就任すると言い出したのに対しても、相当な抵抗が与党内部であった。

 結果的には、エルドアン首相が少し譲歩したということで、来年の大統領選挙にはエルドアン首相を擁立することを、与党は徹底したのだが、今回のデモで雲行きが変わるのではないか。

 エルドアン人気が高まったのは、ダボス会議でのペレス大統領に対する痛烈な非難と、ガザ支援船をめぐる強硬な立場による。そして、経済の発展が国民を、エルドアン支持にしていたのだ。

 今後予想されるのは、これまで絶大な人気と支持の輝きで隠されていた、エルドアン首相の負の部分が、表面に出てくるということであろう。与党AKPも党の命運が掛るだけに、エルドアン首相に対して、何らかの強い対応を採るのではないか。

 今回のトルコ国民による全国規模の大デモは、トルコが経済、政治両面で発展していくためには、通過しなければならない関門なのかもしれない。エルドアン首相が賢明であることを、祈るばかりだ。