ムスリム同胞団がエジプトの政治権力を掌握し、大統領職を抑え、議会も多数派を確保した。したがって、ムスリム同胞団がエジプト政治の変革を実行するのであれば、どこからも効果的な邪魔は、入らないはずなのだが。
現実はそうではない。経済的な問題が解決不可能な状態にあることが、ムスリム同胞団政権にとって、最大の難点であろう。アラブの春革命の前には、エジプト・ポンドは1ドルに対し5・5ポンド程度であったものが、最近では7ポンドに届き、やがては8ポンドまで下がるだろうと言われているほどだ。
当然のことながら、ムスリム同胞団から出てきた、モルシー大統領に対する支持率は、下がっている。昨年9月の段階では66パーセントあった支持率が、現在では30パーセントにまで下がっているということだ、
経済は悪化し最貧困層は、一日2ドルで生活しているといわれている。そうした状態では子どたちも学校に行かず、識字率も下がっている。他方、政治の世界で活動している人たちは、エアコンの効いた部屋で話し合っており、庶民の生活苦を理解していない。
最近のエジプトの気候は異常であり、カイロでも最高気温は40度に近づき、最低気温は22度程度まで下がるということだ。もちろん、エジプト南部のアスワンなどでは、45度を軽く越す、高温に達しているのだ。
エジプト国民の間からは『モルシーがエジプトを壊した』という非難も聞こえてくる。彼らは実際に食料の入手さえも、困難になっているようだ。したがって『ムバーラクの時代のほうがよかった』という庶民も少なくないのだ。
モルシー政権に対する批判と不人気は、その通りであろうが、野党側はどうなのであろうか。ムスリム同胞団政権にとって替われるのだろうか。野党の連合組織である国民救済戦線は、極左から極右までをメンバーにしているが、なかなかエジプトが抱えている問題解決への、具体策は打ち出せないでいる。メンバー自身が『我々は怠け者だからなあ』と語っているとか。
そうした混沌のなかで、サラフィスト組織(イスラム原理主義)の人気が、拡大しているということだ.そのサラフィスト組織の拡大について、ムスリム同胞団も野党も、あまり関心を払っていないようだ。
不満が拡大するエジプト大衆の間では、特異な原理主義が受け入れられるのであろう。『アッラーが導いてくれる』『イスラムはすべての問題の解決策だ』『現状は我々の不信仰が生み出したものであり、アッラーによる懲罰だ』といったものだ。
エジプトのイスラム原理主義のなかで、いま支持を集めているのは、サウジアラビアのワハビー主義だということだ。確かビンラーデンもワハビー主義だったはずだが、今後のエジプトは大丈夫なのだろうか。