サウジアラビアは自国内の不満分子を外国に送り出し、そこで戦闘することを支援し、資金と武器を与えてきた。サウジアラビア政府は彼等をジハーデストとして称えもした。アフガニスタンにソ連軍が侵攻した時はもろ手を挙げてこの若者たちを送りだした。
しかし、ソ連軍が敗退した後、これらのジハーデストたちはアルカーイダを組織し、世界中で展開するようになっていった。もちろん、この流れの後ろには、アメリカも存在していたことは、述べるまでもない。
次いでサウジアラビア王国政府が自国に抱える不満分子たちを、送り出したのがイラクだった。シーア派イラク国民に対する攻撃を、ジハードだとしてスンニー派イラク国民の側で、戦わせたのだ。
イラクに送り出された若者たちの中には犯罪を犯した者たちもいたとうわさされている。つまりジハードに参加するのであれば、罪一等を許すということだったようだ。もちろん、それには武器と資金が付いて回ったのだから、不満を抱く若者たちや犯罪を犯した者たちにとっては決して悪い話ではなかったのだろう。
そして今、サウジアラビア王国政府はシリアの内戦に、自国の若者たちを送り出している。反政府側について、ジハード(?)を戦わせているというのだ。実際はシリア人の結成した反政府組織(FSA)ではなく、外人部隊のヌスラ組織に加わっている者が多いようだ。
国内の安全を確保するためには、これら血気盛んな不満を抱く若者たちを、国外に送り出す作戦は有効であろう。しかし、最近になってサウジアラビア王国政府は、この作戦に不安を抱き始めているようだ。
武器の使用に熟達し、世界のテロリスト(ジハーデスト)と共に戦う経験を持つ者たちが、いつサウジアラビア国内に戻り、サウジアラビアの王国政府に牙をむくようになるか、分からないからだ。
現在シリアの内戦に参加しているサウジアラビアの若者の数は、数百人とも数千人ともいわれている。この若者たちが帰国した時、ブーメラン現象を起こす危険性は否定できない。
かつてアフガン戦争が終わった後、サウジアラビアのアルホバールなどで、大規模なテロが起こって、サウジアラビア王国政府は頭を抱えた時期がある。今度のイラクやシリアの場合は、国境を接している国であるだけに、サウジアラビア王国政府が帰国を止めても、そう簡単には取り締まれまい。
サウジアラビア国内では各種の反体制派が、活動を活発化させてもいる。そうした国内に残留している反政府派と、帰国組が連携する可能性は否定できまい。たとえ連携が取られないとしても,独自に反政府テロ活動を起こすかもしれない。サウジアラビア王国政府内部では、その不安が次第に高まってきているようだ。