エジプトで起こったアラブの春革命の後、エジプトの権力はムスリム同胞団の手に握られた。ムスリム同胞団がカイロの中心にある、解放広場のデモに参加したのは。革命がほぼ成就した頃であり、ムスリム同胞団は決して、エジプトの革命を主導したわけではなかった。
しかし、組織力がモノを言い、ムスリム同胞団は大統領の職を獲得し、議会でも多数派となっていった。そのことが、エジプトの大衆にこれまでよりも、いい生活状態を生み出すのであれば、不満は無かろうが、現実は逆だった。
エジプトの失業率は、上がることはあっても下がることは無い。若者は仕事にあぶれ、一部は暴力集団と化していった。そのため、エジプト国内の治安は悪化し、外国人観光客は未だに復活していない。
観光収入が一番裾野の広い産業であるだけに、観光業が低迷であるということは、エジプトにとって致命的なダメージとなっている。述べるまでも無く、外国からの投資も、今のところ活性化していない。
物価が上がり、外国からの借り入れがうまくいかず、IMFとの交渉を進んでいない。アメリカはムスリム同胞団政権の誕生を、裏から支援していたのだが、経済援助をしてムスリム同胞団政権を支えよう、という動きには出ていない。
こうした流れのなかで、エジプトの大衆が再度の革命を叫び始めている。金曜日は集団礼拝のある日であり、各地のモスクでイマームたちが呼びかければ、多くの人たちがデモに参加する、というメリットがある。このため5月17日の金曜日を、第二革命のスタートと、改革派の人たちは定めた。
モルシー大統領に対する『ノー』の署名を集め、解放広場で100万人集会を開催できれば、体制側に対して大きなショックを、与えることができるだろう、ということのようだ。
署名はあらゆるところで集められており、然るべき数に達するであろうことは、疑う余地が無い。大統領選挙で、次点で敗れたアハマド・シャフィーク氏は、亡命先のアブダビからこの新たな運動に、参加すると語っている。
その後、金曜集会は時間の経過と共に、参加者が増えていき、かつてのムバーラク体制打倒に繋がったような、大集会になるのだろうか。いまのところ、どうもそこまではいっていないようだ。
ムスリム同胞団政権に対する反対運動が、いまひとつ盛り上がらないのは、核になるべき組織が、存在しないためではないだろうか。エジプトの救済戦線なる世俗派の団体は、種々の政党集団思想を持った人たちの集まりであり、闘争方針が必ずしも、一致していないのだ。
しかも、そのリーダーたちのほとんどは高齢者であり、若者を引き付ける魅力に、欠けているのかもしれない。若者たちの間からは、まだスーパー・スターが誕生していない。
今回の新たな革命運動は、結局は尻すぼみに、終わってしまうかもしれない。一度爆発したエネルギーが、再度蓄積されるまでには、やはりある程度の時間が、必要なのかもしれない。