『同じ悲劇がシリア女性にも降りかかっている』

2013年5月11日

 

 以前、イラクが内戦状態の頃、多くのイラク人家族がシリアに難民として、逃れた話をご報告した。そして、その難民たちの何割かが、家族のうちの若い娘が夜の仕事をすることで、生活を維持していたとお伝えした。

 しかし、そのことが同じイラク人の難民のなかで噂になると、その女性は彼女を一家の名誉を傷つけたとして、父親や兄弟によって殺害されたのだ。イスラム世界では今でも、この名誉の殺人が残っているのだ。

 いま、シリアが内戦状態に陥り、多くの難民が周辺国のレバノン、ヨルダン、トルコに流れ込んでいる。これらのシリア人難民が、難民救済委員会によってもたらされる、食料その他は不十分であり、難民たちは何らかの仕事をして、生活費の不足部分をまかなわなければならない。

 そうは言っても、周辺国の全てはそれほど豊かな国ではないし、仕事があるわけでもない。結果的に難民たちは家族の誰かを犠牲にすることによって、日々の生活を維持していかなければならない、ということになる。

 ヨルダンのシリア人難民の状況を、BBCが伝えているが、その内容はおよそ次のようなものだ。18歳未満の若い女性たちが、臨時婚の形で実質的には、売春を強いられているということだ。臨時婚とはイスラム教の一部の学派によって、認められているものであり、便宜的に契約期間だけ結婚が出来るというものであり、その期間が過ぎれば離婚が、容易に成立するようになっている。

 ヨルダンのシリア人難民の場合、スンニー派家族協会という慈善団体が、この臨時婚の実質的仲人役に、なっているようだ。シリア人難民の母親に対し、若い娘を結婚させないかと持ちかけ、湾岸の高齢者と結婚させるということのようだ。

 口聞き役の女性は話を持ちかけた段階で、男性から70ドルを受け取り、結婚が成立すると310ドルを受け取れることに、なっているそうだ。そして結婚時の婚資は、3100ドルが相場な様だ。その臨時婚の期間は1週間といわれている。

 好まれる女性は16歳以下で金髪碧眼、あるいは緑眼であり、肌は白いほど好まれるということだ。

 これらの若いシリア人女性と結婚を希望する男性は、湾岸諸国の50代から80代の男性だということだ。親子ほどのというよりも、爺さんと孫ほどの年の開きがあり、とても普通の心理状態にはなれまい。

 臨時婚で結婚したあと、男性は奴隷のように女性に接し、重労働を強いている場合が多いようだ。それでも1週間で解放されれば、まだましな方なのかもしれない。

 この臨時婚の仲介をする女性に言わせれば、この結婚は契約に基づく正式なものであり、イスラム法的には何等問題はないし、姦通姦淫にも当らないから、この方がいいのだということらしい。

 それは確かにそうであろう。イスラム法ではそうかもしれないが、我々からすればどうしても納得がいかない。若い女性を犠牲にする行為以外の、何ものでもないと思えるのだが。

 戦争と若い女性の犠牲は表裏一体だ、と言うかもしれない。この場合は何がしかの金が家族に渡され、生活できるのだからいいではないか、という人もいるかもしれない。

 先進諸国は経済的に後退しており、こうした若い女性が犠牲になっている話を聞いても、難民への支援を増加することは、あまり期待できまい。シリアの戦火から逃れて、自国を脱出した難民の数は、優に100万人を超えており、支援をきちんとやろうと思えば、巨額の資金が必要になろう。我々には彼女たちのために涙するしかないのだろうか。

 株高と円の下落で沸いている日本の産業界には、こうした悲惨な状況に対する、支援の気持ちは沸かないのだろうかと考えてみるのだが、シリア人難民のヨルダンでの悲劇は、所詮遠い世界の話でしかないのかもしれない。