エジプトのモルシー大統領が、軍の幹部の昇格を指示した。これはいったい何を意味しているのであろうか。ムスリム同胞団の政府が、安定的なものになっていくためには、結局軍の力を、利用しないわけにはいくまい。
数週間前に、モルシー大統領が軍に対し、治安維持を担当するよう依頼したところ、軍は自分たちの役割は外国の攻撃から、自国を守ることであり、国民に銃口を向けることではない、ときっぱり断っている。
つまり、軍はモルシー大統領に対し、不服従の立場を明確に、示したということだ。これまでも、ムスリム同胞団は軍の切り崩し工作を、何度となく試みている。例えば、モルシー政府が成立して間もなく、長期間国防大臣の地位にあった、タンターウイ氏を首にし、新たに大統領顧問の地位を与えた。
そのことに対し、軍もタンターウイ氏も、何ら異議を唱えなかった。次いで就任したシーシ氏は、黙って国防大臣就任の任命を受けている。一見モルシー政府と軍との関係は、良好なようなのだが、本音はどうなのであろうか。
軍にしてみれば、大統領職は軍が3代にわたって独占してきており、大統領は軍のトップが就任するものだ、という意識は多分にあろう。最近では、デモ隊が軍の台頭を、要望する場面も見られる。混乱した状態を正常にできるのは、軍だけだということであろうか。
ムスリム同胞団はそれを、十分に承知している。そこで、タンターウイ国防大臣に次いで、シーシ国防大臣も追放するつもりだ、という推測が流れている。しかし、そうした人事は、十分に注意しながら進めなければ、軍を蜂起させる危険性があろう。
最近になって、革命時に、デモ参加者を軍が殺害していた、という証拠が出てきている。その情報を誰が流しているのかは、定かではないが、いずれから出てこようが、それは軍の威信を傷つけるものであろう。
この証拠が重視され、検討されたのちには、軍の幹部が裁判にかけられることも、ありうるのだ。
ところがこうした情報が流れだしている中で、モルシー大統領は軍幹部の、昇格を発表している。一見それは軍幹部を喜ばせるものであり、ムスリム同胞団政権と軍との、関係をより良好なものにする、策のように思えるのだが。
邪推であるかもしれないが、今回の昇格人事は、実はシーシ国防大臣の追い出しの、下準備かもしれない。
モルシー大統領は今回の昇格人事で、軍幹部と綿密な打ち合わせをしたのか、あるいは、突発的に単独で行ったのか定かではない。もし、モルシー大統領の独断で決まったのであれば、今後、逆に問題を生む可能性があろう。