エジプト政治を注視していると、どうもモルシー大統領が混乱しているようだ。彼が進めたいことと現実とのかい離、彼が進めたいことと他勢力との意見の対立、彼が進めようとしていることと大衆の支持が、どうもぶつかり合っているようだ。
モルシー大統領は就任早々に、イランを訪問している。それは非同盟諸国首脳会議参加のためだったが、その訪問中にモルシー大統領は『イランはシーア派の相元締めであり、エジプトはスンニー派の総元締めだ。』という内容の発言をしている。
つまり、お互いの顔を立てて協力していこう、という意志であったと思う。その後、イスラム諸国会議がカイロで開かれた折には、イランのアハマド・ネジャド大統領がカイロを訪問し、答礼訪問の形になっている。
そうした経緯から、イランに対し観光客を受け入れる意思を伝え、相互の航空旅客機乗り入れも決まったのだが、エジプト大衆の間から、強烈な反対があり、取りやめることになった。エジプト人大衆の間で反対が起こった理由については、既に述べた通りだ。
それに続いて、エジプト政府が資金不足に苦しんでいることから、イスラム・ファイナンスを始めようと思ったのだが、これも反対を受けて、なかなか成立していないようだ。のどから手が出るほど、現金がほしいエジプト政府にしては、痛いことであろう。
加えて、株式取引への課税問題も、課税すれば投資が減るという反対からであろうか、思いとどまらざるを得なかったようだ。
こうして見ると、モルシー大統領は何をどう決定したら実施できるのか、判断が付けにくくなっているのではないか、という気がするのだが、実態はどうなのであろうか。そうした中で、モルシー大統領に逆風が吹き始めている。
多分に、ムスリム同胞団内部でも、モルシー大統領の手腕に対する疑問が、わき始めているのではないだろうか。ムスリム同胞団の結成した、自由公正党による内外政治だが、内実はムスリム同胞団幹部が、口を挟む余地が多分にあるのであろう。
その結果が、モルシー大統領を右往左往させることに、結び付いているのではないか。もう一つの可能性は彼が正直過ぎて、政治家的な発言が下手だということが、原因しているのではないか。他の国の政治家であれば、適当に言をはぐらかすところまで、彼は真っ正直に本音を語ってしまう。しかも口下手で、彼の発言の揚げ足を取られやすい、ということではないのか。
彼に対する同情は私だけのものにして、エジプト国内外での評価はどうなのであろうか。ヨルダン・タイムズの電子版では、早くも『モルシーがムスリム同胞団時代を終わらせる』という記事が載っていた。
ムスリム同胞団によるエジプト統治は、いま始まったばかりなのだ。当分は、少し放置してあげるべきではないのか。