『シャリーアが優先か・政治が優先か』
エジプトでは他のアラブ・イスラム諸国と同じ様に、イスラム・ファイナンスの分野で、動き出す気配が出てきた。イスラム・ファイナンスとは、イスラム法(シャリーア)に沿った資金の運用を図る、ファイナンス・ビジネスだ。
このイスラム・ファイナンスは、マレーシアが最も活発であり、トルコや湾岸諸国も実施している。イスラム法に則り、この場合は金利という考えではなく、投資した金がうまく運用されて、その利益の分け前を受けるというものだ。
しかし、スクークなど幾種類もあるイスラム・ファイナンスには、イスラム法に抵触しそうなものも少なくない。そのため、イスラム各国は独自の、イスラム・ファイナンスを進めている。このイスラム・ファイナンスには、まだイスラム諸国間の統一した見解は、出来ていない。
しかし、お互いに生来のイスラム国家であるという立場から、他のイスラム国のイスラム・ファイナンスの運用について、文句をつけることは無いようだ。しかし、一国がイスラム・ファイナンスを始めるには、国内的コンセンサスを生み出す必要がある、ということになる。そうでなければ、イスラム・ファイナンスを始めた後で、トラブルになるからだ。
さて資金難に苦しんでいる、エジプトのムスリム同胞団政権も、遂にこのイスラム・ファイナンスに、手を出そうと考え始めた。このことは大分前から、検討されていたのであろうが、現段階で提案されるのは、タイミングが悪いように思えるのだが。
それは、ムスリム同胞団政権には、世俗派という反対派がおり、ムスリム同胞団よりも原理主義的な思想を持つ、サラフィ組織も存在するからだ。彼らはムスリム同胞団が資金繰りに苦しんでいることを、良くわかっているわけであり、ムスリム同胞団がその苦境から、イスラム・ファイナンスで切り抜けることを、阻止しようと考えている。
しかし、そのために世俗派が、イスラムの権威を振りかざせるわけではないので、俄然、世界最古のイスラム大学である、アズハル大学に判断を任せることとなる。ムスリム同胞団の多くの幹部も、かつてはアズハル大学で、イスラム学を学んでいたのだ。
さて、アズハル大学はどのような判断を、出すのであろうか。この場合は、政治的な思惑を、入れるわけには行くまい。ムスリム同胞団の中にも、相当のイスラム学者がいるからだ。そうなると、アズハル大学はコーランやハデース(預言者ムハンマドの言行録)から根拠を引き出して、結論を出さないわけには行くまい。
ムスリム同胞団の学者が上か、アズハル大学の学者が上か、過去何十年、あるいは何百年と見られなかった、本格的なイスラム法学者間の論争が、今始まろうとしているのだ。私にはイスラム・ファイナンスは所詮金儲けのための、屁理屈でしかないと思えるのだが。