エジプトのスエズ運河に近い街、ポート・サイド市で行われたサッカー試合の、結果をめぐり起こった暴動で、74人の死者が出たのは2012年2月のことだが、その事件をめぐり、去る1月に、エジプトの刑事裁判所は犯人に対する、判決を言い渡した。結果は21人に対する死刑だった。
この裁判結果が、再度ポート・サイドのサッカー・フアンを、暴徒化させることとなった。そればかりか、エジプトのポート・サイド市以外の街でも、裁判結果に対する反発が強まり、抗議の暴動が起こっている。
問題は、たかがサッカー試合が原因の、死傷者を出す事件にもかかわらず、犠牲者の3分の1にもあたる数の犯人を、死刑にすることが妥当なのだろうか、ということだ。若者がちょっとした事から興奮し、暴徒化し、押さえが利かなくなることは、世界中で起こっていることだ。
エジプトの場合、もしこの時期に、21人もの若者が処刑されることになれば、現体制であるムスリム同胞団政府に対する、反発の起爆剤として、野党側に政治利用されるということだ。
そればかりではない、今回の判決に対する反発で始まった暴動では、スエズ運河の航行にまで、不安が出始めているのだ。小ボートを動かして運河の航行を、邪魔しようとする輩が現れたのだ。
こうなると、これらの抗議のボートを取り締まるために、水上警察のボートが頻繁に、スエズ運河内を動き回ることになり、危険が生じてくるのではないか。大事には到らなくとも、水上警察の船舶や抗議のボートが、スエズ運河を通過する船舶に衝突することは、十分懸念されよう。
結果的に、世界中の船会社によって、スエズ運河の航行が危険である、という判断が下された場合、スエズ運河が実質的に閉鎖される可能性もあろう。あるいは少なくとも、航行する船舶数に、悪影響が及ぶかもしれない。
そのことは、直接的にエジプトの財政に影響を与える、ということではないのか。エジプトの外貨収入源は、シナイのガス資源、労働者の外貨送金、観光収入、そしてスエズ運河の通過料となっているのだ。
これら外貨収入源のいずれもが、いま極めて悪い状況にある。『弱り目に祟り目』という言葉があるが、まさにエジプトの現状はそうなのではないか。この悪循環を止めるための、何らかの策が必要であることは、誰にも分かろう。