『エジプトの治安を誰が守るのか』

2013年3月 9日

 

 どうやら給与の未払いと遅配が続いた結果、警察までもがムスリム同胞団政権の言うことを、聞かなくなっていきそうだ。

 先にムスリム同胞団を結成した自由公正党政権の、モルシー大統領が軍に対し、デモ隊に対する発砲を含む、治安維持を命じたところ、軍はあくまでも外国の敵から、自国領土と国民を守ることが役割だと拒否した。

 それは道理にかなった返答であり、モルシー大統領もそれ以上のことは言えなくなった。

 しかし、警察についてはそうは行くまい。警察の仕事は国内治安の維持が、役割なのだから。

 警察を束ねる内務省は以前、モルシー政権の国民のデモに対する強硬対応を拒否しているが、今度は警察が強硬対応を拒否したのだ。こうなると一体誰がエジプト国内の治安を、維持するというのだろうか。

 警察は何故デモ隊に対する強硬対応を、拒否したのであろうか。実は警察は治安維持という悪役を、ムバーラク政権時代もその後の革命政府時代も、担わされてきている。

 軍は国民のデモに高見の見物を決め込み、国民の信頼を維持してきたが、警察は悪役を演じさせられ続けてきた。それでも警察は自分たちの役割だと思い、我慢してきたのであろう。

 しかし、ここに来て警察の我慢は、限界に達したようだ。給与の未払い遅配が続くにもかかわらず、身体を張って国内の治安維持に尽くしてきたのだが、それをきっぱりと拒否し始めたようだ。

 もう悪役はごめんだ、ということであろう。デモ隊に死者は出たが、警察の側にも死者や重傷を負ったものが多数いる。彼らの遺族や重傷者の今後の生活は、誰が見てくれるというのか。

 ムスリム同胞団政権は、遂に最大の難局に向かい始めたのかもしれない。莫大な資金援助を受けるか、外国から資金を借りる以外に、公務員に給与を支払い、国民の最低生活を保障することが、出来なくなったのだが、何処の国も今のムスリム同胞団政権には、大金を貸しても、援助してもくれまい。

 そうなるとまさに『パンをよこせデモ』から『パンによる革命』が始まるということではないか。今年の1月末にカイロを訪問したとき、友人はあと3ヶ月持つかなあ、あるいは5月までかなあ、という話をしていた。いまその3ヶ月が過ぎようとしている。