私が1月末から2月始めにかけて、エジプトを訪問した折に、ごく一部ではあるが、デモ隊のなかから『軍はクーデターを起こせ』『軍による統治を希望する』という、スローガンを叫ぶ者が少数いた。
混乱が長くなれば、国民の多くは当然の選択肢の一つとして、軍による統治を望むのであろう。軍事政権がいやか、あるいは社会混乱の継続がいやかといえば、一日でも早い秩序ある生活が戻る方を選ぼう。
2月の終わりに差し掛かったいま、カイロの最高裁判所前や大統領府前では、毎日デモが繰り返されている。そのデモ参加者のなかから、軍に対する期待を口にする者の声が、次第に増えているようだ。
『体制を打倒しよう』『油とパンをよこせ』といったスローガンに混じり『軍による統治を希望する』と叫ぶ者が、次第に増えてきているのだ。
それでは国民の支持が増えている、軍や警察は内部に、心配を抱えていないのかというと、そうでもないようだ。
実は警察官の中には、イスラム主義者が出始めてきているのだ。彼らはあごひげを伸ばして勤務し、自分はムスリム同胞団政権を支持している、というアピールをし始めたのだ。
内務省はそれを禁止したのだが、裁判所はアゴ髭を伸ばす自由を認め、内務大臣のアゴ髭禁止命令は否定された。
軍でも似通った現象が現れ始めている。それは軍の車両に『ラーイラーハイッラッラー・ムハンマドラスールッラー』つまり『アッラーのほかに神は無く、ムハンマドは預言者だ」と書かれたステッカーを張る、軍人が現れ始めたのだ。
当然、これも軍によって禁止命令が出された。しかし、警察の髭事件同様に、裁判所はステッカーを貼ることを、許可する判決を下すかもしれない。
軍としてはなんとしても中立の立場を貫きたいとし、現在のムスリム同胞団政権支持の立場に、回りたくないということであり、こうしたイスラム・スローガンが書かれたステッカーを貼ることは、禁止したいだろう。
軍はあくまでも中立でありたい、と考えているからだし、軍の幹部は入れ替えられたとはいえ基本的に世俗派であろう。しかし、一部の軍人の中には、ムスリム同胞団支持者もいよう。
このステッカー事件でいえることは、軍人が世俗派のデモ隊よりも、ムスリム同胞団が抱えている、暴力集団の方を恐れて、張り出したのかもしれない。もちろん、真相はステッカーを貼った軍人に、聞いて見なければ分からないのだが。