『モルシー大統領が軍に要請だが拒否されたか?』

2013年2月 6日

 エジプトの国内状況は、日に日に悪化しているようだ。それは何度も述べたが、治安が悪く観光収入が期待できないことに加え、工場の操業率が低下していることによる失業率の上昇、そして物価の値上がりなどがあるからだ。

 このため、毎週金曜日の集団礼拝の後は、大規模なデモがエジプト各地で起こっている。最近ではその要求項目が『民主化』一本に、絞られたという情報もある。

 こうなると、政府は何とかデモを阻止し、社会を安定化させる必要に迫られよう。しかし、国庫は底を尽く寸前であり、政府による国民救済策は実行できない。そこで最後の頼みの綱は、軍ということになる。

 モルシー大統領は24日であろうか、突然軍に協議を申し入れ、デモの阻止を依頼したようだ。その冒頭でスエズ運河沿いのイスマイリーヤ、スエズ、ポートサイドで起こったデモの鎮圧に、軍が出動してくれたことに感謝した。

しかし、シーシ国防相を中心とする軍の幹部たちは、軍側は街頭デモの阻止は警察の仕事であって、軍の役割ではないと拒否したようだ。軍としては本来警察が果たすべき、街頭デモ鎮圧に乗り出すことは、国民の軍に対するイメージを悪くし、信頼を失うことになり、望まないのは当然であろう。

また、軍は基本的に街頭デモ対応を、訓練しているわけでも、街頭デモ鎮圧のノウハウがあるわけでもないので、軍が出動してしまえば、相当乱暴な対応となり、死傷者が出ることは、目に見えているのだ。

軍代表者たちの一部には、モルシー大統領の虫のいい、実弾発砲などによる強硬策実施依頼の要望に、腹を立て席を蹴って退出した者もいたようだ。軍としては果たすべき役割は国防が第一であり、昨今の不安定な中東情勢下では、あまり国内問題にかかずり合いたくない、ということであろう。

軍側が示した治安対策の範囲は、アスワンダム、スエズ運河、発電所、ガス施設、国営民営銀行、などに留まるということだ。モルシー大統領はOIC首脳会議中だけでも、何とかデモを抑え込みたい、と考えたのであろうか。

モルシー大統領とムスリム同胞団は、タンターウイ国防相を辞任させ、大統領顧問と言う特別な名誉職ではあるが、実権の伴わない地位に追いやったことで、軍を自由に活用できる、と考えたのかもしれないが、全くの計算違いであったことが、うかがわれる。

25日に、イランの国会議員のメヘデイ・ダワルガ氏は『このままでいけばエジプトでクーデターが起こってしまう。』と警告し、『憲法に則り対話を進めるべきだ。』と強調している。しかし、反体制派は政府の対話呼びかけに、本気で応えるであろうか。時間はその対話可能なポイントを、既に過ぎてしまっているのではないのか。