エジプトではご存じのとおり、反政府デモが繰り返されているが、最近それが激化し、一般市民のなかに死傷者が多数出ている。同じようにこのデモを取り締まる警察官や、治安軍の兵士のなかにも、負傷者が多数出ているようだ。
この負傷した警察官たちは、いま主にカイロの一角ナスル・シテイにあるアグーザの病院に収容されている。彼ら負傷者には献血が必要になっており、警察幹部が一般市民からの、献血を呼びかけた。
一般市民と彼らのデモを取り締まる警察とでは、敵同士であるだけに、この経緯が興味深い。警察幹部が呼び掛けた献血に、どの程度の反応があり、どれだけの一般市民が、献血の呼びかけに応えるか、ということだ。
もし、この警察幹部の呼び掛けに対し、一般市民の多くが応えるようであれば、今後の流れが想像できるのではないか。現段階で単純に言えば、警察や軍の治安部は、一般市民のデモを取り締まる側であり、敵なわけだが、一般市民のなかにはこんな混沌状態から、早く抜け出したいという感情も、相当強いのではないか。
最近では、ムスリム同胞団の率いる政府に統治能力が無い、という評価をする者も少なくない。したがって、この状況が続けばやがてエジプトは、崩壊するという懸念が広まってもいる。
エジプト軍のシシ参謀総長は『エジプトはこのままでは崩壊してしまう。』と公の場で警告を発している。
エジプトの現状は、そこまで悪化しているのであろう。経済は観光が全く復活していないし、スエズ運河の通過量も減っていることから、通過料があまり入らない。加えて、ムスリム同胞団に不信の念を抱く湾岸諸国からも、思うように援助金が集まらないのだ。
あるエジプト評論家が、『パンやガソリン食品の値上がり、そして失業という問題が、エジプトを不安定な状態にしているのであり、政治に問題があるのではない。』と言っているが、それは一部正解であろう。
しかし、エジプトが抱えるこれらの問題の発端は、ムスリム同胞団政府の誕生に、原因があるのではないか。ムスリム同胞団には湾岸諸国との、関係改善の能力が無いこと、一切の汚職を認めないことから、社会的潤滑油が不足していること、などにも大きな原因があろう。もちろん、それらのことに加えムスリム同胞団には、統治の経験が無いことも挙げられよう。
こうした悪循環の状態から、あるいは今回の警察官への献血呼びかけが、変化をもたらすのではないかと思い、注目した次第だ。エジプト国民の多くが、もし、警察や軍が社会的な安定を取り戻してくれることに、一般市民が期待しているのであればを、間接的なその意思表示を、献血への参加という形であらわそう。