権力を手にし、しかも大衆の支持が強くなると、ほとんどの人間が『自分は神に選ばれたのだ』と勘違いするのかもしれない。それはキリスト教やユダヤ教、イスラム教のような唯一神信仰の国では、なおさらなのかもしれない。
ダボス会議で国際的なデビューを果たし、一躍世界的に有名になったトルコのエルドアン首相は、中東地域の多くの国民と首脳たちに、支持されるようになった。続いて起こったガザ救援船マーベ・マルマラ号事件で、トルコ人の支援者がイスラエル特殊部隊によって殺害されたことから、アラブ人たちは『トルコがアラブのために血を流してくれた』とトルコとエルドアン首相を激賞した。
そのエルドアン首相の人気に陰りが見え始めたのは、今年の半ばごろからであろうか。彼は今年の第一四半期の終わりごろ大腸手術を2度受けたといわれている。その後、エルドアン首相の権力拡大が目立ち始め、与党内部でも彼に対する批判が出始めた。
次いで、エルドアン首相の任期が来年で終えることを踏まえ、エルドアン首相は大統領就任を希望し始めた。しかも、その大統領はいままでのような権限の無い、単なる象徴としてのものではなく、実権を持った大統領になることを希望し始めた。
当然のことながら、このエルドアン首相の構想には与野党から反対が出ている。権力の一極集中は独裁色を強め、民主主義を破壊することになる、しかもそのためには、憲法の一部を変えなければならない、という恐れからだ。
そして遂に、エルドアン首相の構想に対する、反論が表面化し始めた。野党CHPの党首と与党のギュル大統領が、揃ってエルドアン構想に反対する、と発言したのだ。
これまでのトルコ首相就任者の中で、最も人気の高い一人に数えられたエルドアン首相は、いま独裁者の様相を呈し始めている。エルドアン首相の政治手法に反対する多くのジャーナリストが逮捕投獄され、大学生も多数が逮捕されているのだ。
ハテップ・スクールという、イスラム学を中心にする学校の卒業生であるエルドアン首相が、こうも非難を浴びるようになったのは、彼の健康不安と、家族問題が影響している、と一部ではささやかれている。
政治家であれビジネスマンであれ、あるいは学者であれ、正常に仕事をしていくためには、自身の健康と家庭のサポートが重要だということであろうか。トルコ国民の間では支持者が多い、ヌルジュ(サイド・ヌーリシー)と呼ばれる、イスラム教神秘主義がある。
この前、そのイスラム教神秘主義の高位の学者の一人が死亡し、葬儀が執り行われたが、エルドアン首相はその学者の棺桶を担ぐ、一人に加わったと伝えられている。
イスラム教神秘主義の学者の棺桶を担いだときに、エルドアン首相は何も感じなかったのであろうか。もし何も感じなかったのであれば、彼は単なる権力亡者に、堕ちたということであろう。彼はすでに直観力を失ってしまった、ということではないのか。そうであって欲しくないものだ。