エジプトのムスリム同胞団が結成した、自由公正党の代表モルシー氏が、大統領に就任してほぼ半年が経過する。この時期になって、モルシー大統領には厳しい難題が、山積みにされているようだ。
シナイ半島のテロリスト問題の解決、エジプト経済復興問題の解決、イスラエル関係問題の解決、そして国内政治問題の解決などだ。なかでも国内政治問題の解決は、極めて困難な状況に陥ってきている。
モルシー大統領は山積する難問を、出来るだけ早期に解決したいと考えた。そのためには、権力の集中が必要であると考えた.そのための臨時措置法を宣言した。しかし、それは国内の世俗派からは、独裁に走るものだと非難され、強い反発を受けている。
モルシー大統領がいま抱えている難問の幾つかは、実はムスリム同胞団が播いた、種である部分もある。例えば、シナイ半島に集結している、イスラム原理主義者やテロリストは、ムスリム同胞団が革命時に、刑務所を破壊して逃亡させた輩や、その後恩赦で釈放した輩なのだ。
経済問題は治安の維持が、うまく機能していないことに、大きな理由がある。治安が悪い状態では、観光客も外国からの投資も、上手く進まないのだ。実は現在エジプトの軍や警察は、月給の半額しか支給されていないのだ。これでは誰が真剣に、治安の維持を図るというのだろうか。
イスラエルとの関係も、キャンプデービッド合意を再考する、という立場を表明したことから、イスラエル側は現政権を、信頼出来ない状態に陥っているのだ。
しかも、イスラエルが一番頭を抱えている、ガザのハマース組織はエジプトの政権同様、ムスリム同胞団の組織なのだ。ムスリム同胞団同士の関係を考えると、イスラエル側はエジプトが何かにつけて、ハマースびいきの対応をしてくるのではないか、という不安が湧こう。
エジプト国内問題、一言でいえば、エジプトの民主化実現には、大きな制約がある。一つはムスリム同胞団によって結成された、現政権は出来るだけ早く、出来るだけ広範にわたって、イスラム法(シャリーア)を実施したい、と考えているだろう。
しかし、それにはエジプトの世俗派の人たちや、コプト・キリスト教徒が反対している。それを力で押しつけようとしたことから、今回の国内混乱状態が発生しているわけだ。
エジプトのコプト・キリスト教徒が、自由を剥奪されているとなれば、欧米諸国は黙ってはいられない。そこで欧米諸国はモルシー政権に対し、民主化の実施を要求した。しかし、それは前向きな受け止められ方をしていない。
そこで、ヨーロッパ諸国の議会代表マーチン・シュルツ氏は『経済的圧力をかけなければ、エジプトの民主化は進まない。』と断言し、民主化の推進が無ければ、政治的にも経済的にも、協力すべきではないと語っている。
アラブの春革命を背後から支援した、アメリカのフリーダム・ハウスも最近になって『モルシー大統領の宣言した新憲法は、エジプトの発展を後退させるものだ。』と痛烈に非難している。
アメリカ政府はエジプトの新憲法の国民投票で、監視人を立てるべきだと要求し始めている。つまり、現政権に任せたのでは、不正が行われる可能性が高い、と判断してのことであろう。
欧米諸国、なかでもアメリカのオバマ大統領は、エジプトのムスリム同胞団を、トルコのAKP(開発公正党)と同じような、穏健なイスラム教徒の政権と判断していたようだ、そのため一定の期間を与え、ムスリム同胞団自らが経験を積み、改善していくことに期待していたようだ。
しかしこにきて、エジプト国内の世俗派が、政権に対する反発を強くしてきたために、エジプトのムスリム同胞団政権に対する対応を、再検討する必要があると考えているようだ。
そうなると、モルシー大統領はますます困難な、立場に立たせられる、ということであろう。近い将来、欧米諸国は『やはりムスリム組織では政権担当は無理だ。』という結論を出すのかもしれない。その頃には、アラブの革命でイスラム原理主義組織が、前面に出てきたことに対する批判が、各国で出てこよう。