チュニジアのガンヌーシ大統領が、価値ある発言をしている。これからの中東世界の政治動向を見ていく上で、非常に参考になる発言であった。
チュニジアのガンヌーシ大統領はアラブの春革命の成功の後、チュニジアの大統領に就任した人物であり、彼はナハダ党という、イスラム原理主義組織の出身である。
アラブ世界がイスラム色を濃くし、エジプトでも同様に、イスラム原理主義のムスリム同胞団が与党となり、モルシー氏が大統領に就任している。リビアでもムスリム同胞団の勢いが、最も強い政治の流れとなっているようだ。
しかし、イスラム原理主義組織による政権運営は、必ずしもスムーズに行っているわけではない。ご存知の通り、エジプトではモルシー大統領が突然提案した、臨時的大統領権限の拡大に対し、世俗派から強い反発が生まれている。
チュニジアの場合はナハダ党よりも厳格な、サラフィ派が政府の軟弱なイスラム施行姿勢を非難し、独自の強硬路線をとっている。結果は、サラフィ派とナハダ党の率いる政府との、真正面からの対決になっている。
こうした流れのなかで、ガンヌーシ大統領はおよそ次のような、内容の発言をしている。
『アラブ世界がいまイスラムを無視できない状況になっている。アラブ大衆の共通基盤はイスラム教だ。従って、イスラム教を無視した政治は成り立たない。しかし、イスラム原理主義だけでは国家を運営していけない。そこで国家が健全な進展をしていくためには、世俗派も積極的に政治運営に参画すべきだ。』というのだ。
このガンヌーシ大統領の発言を、分かりやすく表現すれば『我々はイスラム主義の政策を採っているが、より強硬なイスラム原理主義者たちは、我々の政策を手ぬるいと非難している。
しかし、我々は厳格なイスラム主義によって、政治を運営していくつもりは無い。そこで世俗主義者たちも政治に参加し、穏健なイスラム主義と世俗主義の、融和と協力を図るべきだ。世俗派の協力があれば、過激なイスラム原理主義の台頭を抑えることができる。』ということであろう。
ガンヌーシ大統領が指摘しているように、アラブ各国はいま、国民の間の共通の基盤として、イスラム教しか存在しない。従って程度の差はあれ、イスラム教を無視して、国家を運営することは出来ない。
しかし、それが行き過ぎれば、国家をイスラム主義者と世俗主義者とに分裂させ、流血と混乱を生み出すだけだ。いまアラブ諸国にとって必要なのは、イスラム主義と世俗主義の、協力と共存だということであろう。
そうした世俗主義者との妥協しようという考えが、イスラム原理主義のナハダ党出身の、ガンヌーシ大統領が発言したことには、大きな意味があろう。しかし、それをイスラム主義の政権が正確に認識し実行していくまでには、もう少し混乱に直面する経験を経る、必要があるのかもしれない。