パレスチナ自治政府(ファタハ)のマハムード・アッバース議長が、ハマースに対し、ハマース結成25周年記念行事を、ヨルダン川西岸で開催することを許可した。一見当然のことに思える決定だが、この裏には多くの思惑が働いているのだ。
パレスチナ自治政府を主導するファタハ組織と、ガザに陣取るハマース組織は、2007年の衝突以来、分裂したままになってきていた。ファタハはイスラエルとの、妥協的な和平交渉をだらだらと続けてきた。その根底には、1967年時点の境界を新たに設立されるであろう、イスラエルとパレスチナの国境とする、という了解だった。
しかし、ハマース側は1967年の境界を認めていない。ハマースは先にガザで行われた25周年記念式典で、ハーリド・ミシャアル代表が『パレスチナの土地は地中海沿岸からヨルダン川岸までであり、南北の範囲だ。』と力説している。そこにはイスラエルは存在しない、という建前なのだ。
今回、パレスチナ自治政府(ファタハ)のマハムード・アッバース議長がハマースの記念集会開催を許可したのは、次第に強まるハマースのパレスチナ人内部での評価と、支持に対する焦りもあろう。
このまま推移し、ハマースの存在が大きくなっていけば、パレスチナ自治政府はパレスチナ人全てを、代表してはいない、ということになってしまおう。そこでマハムード・アッバース議長は、ハマースに対し、妥協を示したのであろう。
ハマース結成25周年記念行事を、ヨルダン川西岸地区で行えば、ハマースはパレスチナ人に対し、武力によるイスラエルへの、徹底抗戦を訴えるであろう。そうなれば、これまでのようなイスラエルとパレスチナ自治政府との、平和な関係は破壊されかねないということだ。
こうしたマハムード・アッバース議長が示した妥協に対し、ハマースのハーリド・ミシャアル代表は『パレスチナに対する責任は、派閥以上に大きい、ハマースはファタハ無しには出来ないことがあるし、ファタハもハマース無しには出来ないことがある。』と語っている
しかし、それは本音ではあるまい。ハマース側はファタハ側の妥協を突いて、今後強硬路線を主張していこう。それは、ファタハがこれまで続けて来た、冷たい平和交渉を、駄目にしてしまうかもしれない。
パレスチナとイスラエルの関係は、食うか食われるかだが、ファタハとハマースの関係でも、それは同じだ。したがって今回のファタハ側の妥協を、パレスチナの連帯、意思統一などとは、考えるべきではなかろう。