PLO創設以来のメンバーで、言うまでもなくPLOの大幹部、元は政治運営部長(外相相当)のファルーク・カドウミ氏が、極めて重要な内容の発言をした。それは、今後のパレスチナとヨルダンにかかわるものだった。
ファルーク・カドウミ氏はパレスチナとヨルダンが、一つの国になるべきだと主張したのだ。このことについては、1986年だったと思うが、ヨルダンの当時のフセイン国王が西岸地区を切り離し、ヨルダンの施政権を放棄して以来、立ち消えになっていたことだ。
フセイン国王は、パレスチナとヨルダンが結びついていることは、将来的に危険だ、と考えたからであろう。そのことに加え、当時パレスチナ内部には、独立国家設立の機運が、高かったこともあろう。
そうした経緯があったにもかかわらず、なぜいまファルーク・カドウミ氏は、パレスチナとヨルダンの一体化を口にしたのであろうか。それは、パレスチナ自治政府がデッド・ロックに、ぶち当たったからであろう。
パレスチナ自治政府は独自に、イスラエルとの交渉を展開してきたが、何ら成果を挙げていない。そればかりか、どんどん西岸地区はイスラエルの入植によって、占領を拡大されている。それにブレーキをかける手段はないのだ。
しかし、ヨルダンのアブドッラー現国王も、パレスチナとの一体化については、明確にノーを主張している。そうでなくとも、パレスチナ人の割合がヨルダン人口のなかで、増加していくなかで、もし、西岸のパレスチナ人を受け入れる事になれば、ヨルダン内政はますます、不安定化することになろう。
ファルーク・カドウミ氏の発言を、イスラエル側は歓迎しているようだ。それは、西岸地区からパレスチナ人を追放することが、容易になるからだ。イスラエルは今後も、西岸地区での入植活動を、活発にして行こうが、それに反発した者は、ヨルダンに追放しやすくなる、ということだ。
もし、パレスチナとヨルダンが一体化したら、西岸のパレスチナ人たちは入植の拡大と、イスラエルの弾圧政策に、何故ヨルダン政府は動いてくれないのか、という不満を主張し始めよう。
それに呼応して、ヨルダン国内のパレスチナ人も、政府に対する抗議活動を展開しよう。パレスチナ自治政府の幹部たちは、自分たちの責任を、ヨルダンの国王になすりつけるばかりか、やがては、ヨルダンの内政に大きな影響力を、持つようになっていくかもしれない。
このシナリオは誰が描いたのかを、考えてみる必要があろう。