『エルドアン首相とシリアとの緊張そして』

2012年10月 7日

 2010年のダボス会議での、トルコのエルドアン首相の発言は、アラブ諸国の首脳の間に感動を呼び起こした。イスラエルのペレス大統領を『イスラエルは人殺しの国だ。』と痛烈に批判したからだ。

その後に起こったガザ地区への支援船マルマラ号事件も、アラブ世界を興奮させた。以来、トルコのエルドアン首相はトルコばかりではなく、中東地域全体のリーダーのような、イメージを創り上られていった。

しかし、そうだろうか。トルコ国内やヨーロッパからはエルドアン首相の手法を必ずしも歓迎しない動きが出てきている。その最たるものが、トルコ国民にとってはシリアへの対応であろう。エルドアン首相は戦争も辞さず、という強気の立場を採っている。

ヨーロッパ諸国からはエルドアン首相の政治手法は、ケマル・アタチュルクと変わらない独裁的な色彩の強いものだ、という批判が出始めている。確かに彼の政策に反対するジャーナリストが、逮捕されていることなどから、この批判は的外れなものではあるまい。

エルドアン首相がアラブ諸国で、実力以上に評価されているのには、幾つかの理由がある。アラブの春革命を経験した国々では、イスラムと民主主義の並立の、政府の雛形が出来ていないのだ。そこで、アラブの春革命を経験した諸国では、トルコのAKP( 開発公正党)を、モデルにしようと考えている。トルコに擦り寄ることによって、これらの国々は内外での自国のイメージを、良くしようと考えているのだ。

そして、トルコが自国に対し経済支援、技術支援をしてくれることに、期待していることも事実だ。トルコ企業が自国に投資してくれれば、その国の政府はあまり努力しなくても、経済状況を改善することが出来るという、他力本願的な発想なのだ。

そうした周辺諸国の雰囲気のなかで、エルドアン首相は次第に、中東地域のリーダーだ、と自分を過信し始めているようだ。そのことに対する反発が、トルコ国内では出始めている。

エルドアン首相の手法に対し、ブレント・アルンチ副首相やギュル大統領が、苦言を呈し始めている。ブレント・アルンチ副首相はエルドアンの周りには、最終的に『イエスマン』だけが集ってしまい、民主主義が機能しなくなる、と批判している。

ヨーロッパ諸国のトルコ批判も、この点を突いているのであろう。『トルコではいまだに自由な表現(フリー・スピーチ)が確立していない。』と批判している。エルドアン首相が冷静になり、早急に方向を修正しなければ、足元のAKP内部から、非難の炎が拡大する危険があろう。