『あるシリア人女子留学生の話』

2012年9月22日

いま世界中に日本のアニメフアンがいる。その人たちは幼児期から子供の頃にかけて、日本のアニメ・テレビ番組を見て育っているのだ。優しく可愛い、日本のアニメのキャラクターが、大好きなのだ。

そのため大きくなってから、アニメの勉強に日本に行きたい、と思う人は少なくない。憧れの日本に行って日本語を勉強し、次いでアニメの勉強をして帰国し、沢山のアニメ番組を自分でも作りたいと思うのだ。

数日前に新宿のボスポラス・ハサンという、トルコ・レストランに招待した人もその一人だった。日本のホスト・ファミリーと私の友人の女性カメラマンと本人、そして私を含めて5人の会食となった。

彼女はシリアの大学で、挿絵や漫画のキャラクターなどの絵を描くことを、勉強していたようだ。政治の話が優先して、あまり個人的な話しは聞かなかった。シリアがいま内戦状態になっており、ダマスカスには彼女の家族がいるのだから、今後彼女はどうするか、という問題の方が優先したのだ。

実際のところ、彼女には一日も早くシリアに帰国して、家族と共に暮らした方がいいとも思えるし、シリアは危険だから日本に残るべきだとも考えられる。そのいずれもが正解であり、同時に不正解なのだ。

彼女がもし留学を続けるとすれば、アルバイトをしなければなるまい。シリアからのお金の持ち出しには、制限があったからだ。そうかと言っても、考えられるアルバイトは、語学学校の講師か、アラビア語の翻訳の仕事であろう。

それも今ではそう高いお金は貰えないだろう。語学学校の仕事が見つかっても、何校かで掛け持ちで教えなければ、生活費は稼げないのではないか。

他方、文部省の奨学金を貰って、留学している学生の中には、アルバイトが本業になり、奨学金を貰ってはいるが、まじめに勉強していない留学生も、少なくない。博士課程でドクターを取れていないといって、奨学金を貰い続けているのだ。

ホスト・ファミリーは来年から、アフリカに技術指導に出かけることになっているため、彼女は孤独な立場におかれることになるし、支援をしてくれる人もいなくなる。

シリア人の女性は来年どうするのだろうか?豊かな日本に来たというのに、援助してくれる人も見つからず、戦争状態のシリアに帰国するのだろうか。あるいは当分の間、日本でひもじい生活をしていくのだろうか。

それより先に、もし帰国を決断したとしても、彼女はいまシリアに、無事帰国できるのだろうか。そしてその後、安全に暮らしていけるのだろうか。