いま世界中でイノセンスオブムスリムズ(無邪気なムスリムたち?)という映画が問題視されている。簡単に言うと、イスラム教の預言者ムハンマドが、自堕落で女たらしでとんでもない人物だった、という表現の映画なのだが、それはイスラム教徒にとっては、許せないことなのだ。
この映画が上映されたのは、ロスアンジェルスのひなびた映画館が最初らしいのだが、映画のサマリーがインターネットやツイッターを通じて世界中に流れると、たちまちにして激しい反発がイスラム世界中から起こっている。
エジプトのカイロ市ではアメリカ大使館が襲撃され、アメリカ国旗がデモ隊によって焼かれるとういう事態が起こっているし、抗議デモはまだ続いている。
リビアの東部のベンガジ市では、アメリカ領事館が襲撃され、3人の外交官と大使が殺害されている。いまの段階ではこの領事館襲撃事件は、事前に計画されたものであり、主犯はあるカーイダであろうとみられている。襲撃の容疑者が4人逮捕されているということなので、これから襲撃の全容が、明らかになってくるかもしれない。
イスラム教の預言者ムハンマドにかかわるものだけに、この映画に対する非難は今後、イスラム世界全体に広がり、収拾がつかなくなるかもしれない。現段階ではエジプトとリビアに加え、サウジアラビア、クウエイト、イラク、イランイエメン、チュニジア、モロッコなどで抗議デモが起こっているが、それが暴徒化する危険性は多分にあろうし、一部では既にそうなっている。
イスラム各国政府は対応を間違えれば、体制非難の原因になろう、もし抗議デモを支持すれば、欧米から圧力がかかり、非難すれば国民の反発を、買うことになろう、まさに板挟み状態にあるのだ。
モルシー大統領が大分迷った後で、態度を少し明らかにしたのは、そうした事情からであろう。彼は最終的に映画を批判し、国民に過激な行動を控える発言をしている。しかし、どうも力が入っていない。彼もイスラム原理主義のムスリム同胞団の出身だから、無理もないのかもしれない。
アメリカのオバマ大統領はこの映画事件が、彼の大統領選挙に影響を及ぼしうる、と考えているのではないか。対応が弱ければ、アメリカ国民は彼を非難し、支持を減らそう。対応が強ければ場合によっては、イランに対する軍事攻撃にまで発展する危険性があろう。
今回の映画の被害者は、イスラム諸国の元首であり、オバマ大統領なのかもしれない。たかが出来そこないの映画、とは言えない状況が生まれているのだ。