アラブの春革命、大衆による独裁者の打倒と民主化、そして、次いで現れたのは、イスラム原理主義政権だった。エジプトではムスリム同胞団が政権を取り、議会の半分を押さえ、大統領職までも独占した。その後のエジプトは、ムスリム同胞団の独壇場と化した。
チュニジアでもイスラム原理主義の、ナハダ党が権力を独占し、その影でより原理主義的なサラフィ派が、世俗大衆を弾圧している、というのが実情だ。つまり、世俗派の大衆によって始められた、チュニジアとエジプトの革命は、何時の間にかイスラム原理主義者たちによって、横取りされてしまったのだ。
それでもよしとしよう。もしそのイスラム原理主義の政権が、国民により自由で豊かな生活を、保障するというのであれば。しかし、現実はそうではない。エジプトのモルシー大統領は湾岸諸国を訪問し、苦しい経済事情を説明し(?)援助を要請したようだ。
だが湾岸諸国はカタールを例外とし、サウジアラビアもアラブ首長国連邦も、ムスリム同胞団というイスラム原理主義組織を、信用しなくなっている。それ以上に警戒し始めているのだ。
アラブ諸国で起こった一連の革命劇の中で、ムスリム同胞団がどのようにして権力を独占したのかを、これらの国々は見ていたのだ。そして、その牙が自国にも向かってくる脅威を、今になって感じ始めているようだ。アラブ首長国連邦では既に、警察長官が2~3ヶ月ほど前から、ムスリム同胞団の危険性を、露骨に訴え始めていたが、最近になって『何故いまアラブ首長国連邦国内で反体制の動きが拡大しているのか。』という疑問が持ち上がり、その裏にはムスリム同胞団の存在があるとする意見が、露になってきている。
今回のアラブの春革命は、各国に膨大な損失を生み出している、という報告がサウジアラビアのアルハヤート紙によって、報じられている。その記事によれは、何兆ドルもの損失をアラブの春革命が、生み出したというのだ。
加えて、リビアのカダフィ大佐とその家族、チュニジアのベンアリ大統領とその家族、エジプトのムバーラク大統領とその家族らによって、国外に隠匿され、あるいは投資されていた資金が、各国別それぞれに何百億ドルにも上っているというのだ。
しかし、その金額や隠匿先が分かっていても、それを新体制は簡単には回収できないようだ。これからほぼ10年の歳月を費やしても、全額を取り戻すことは出来ないという見通しだ。
アラブの春革命が起こった国々は、今後、経済的窮地に立たされることが、ほぼ確実なようだ。一体このアラブの春革命は、何のためだったのだろうか。