イスラエルのネタニヤフ首相は、強硬論者であるという認識が、世界的に広がってしまったのではないだろうか。そして彼を支えるバラク国防相も、同じように頑固な強硬論者と、認定されてしまったようだ。
二人はだいぶ長い間、イランの核開発について、最終的には核兵器を製造することを目的としている、と主張してきた。そして、イスラエルが唯一中東地域にあって、核兵器を保有する権利がある、というニュアンスの主張をしてきている(イスラエルは200発以上の核兵器を、保有していると見られているが、それを未だに認めてはいない。)。
問題はイスラエルが望む、イランの核開発阻止のための手段が、国際会議によっては達成されないことが、ほぼ確実になっていることだ。したがって、残る手段は力による阻止ということになり、それは軍事力の行使ということになるのだ。
しかし、それは極めて困難なことだ。とてもイスラエル一国では無理であろう。このため、これまでイスラエルはアメリカとの協力による、軍事攻撃を考えて来た。だがアメリカはそう簡単には、イスラエルの申し出を、受け入れてはくれない。
アメリカの要人がイスラエルを訪問する度に、イスラエル政府は自国の持つ情報と、それを元にした分析結果を伝え、いかにイランの核開発が、危険なものであるかを説明してきた。なかでも、今年11月に予定されている、アメリカの大統領選挙候補者に対しては、念入りな説明と説得を、試みてきている。
それでもアメリカはイスラエルの呼び掛けに、真正面からは応えようとはしていない。その結果、イスラエルは自国が主張してきた、イランの核兵器開発の危険を阻止するために、何としてもイラン攻撃をしなければならない状況に、自らを追い込んでしまった。
もし、イスラエルがイランの核開発に、何らの手段も講じないとすれば、それはこれまでのイスラエルの主張してきた主張『イランの核開発は核兵器の開発が目的だ。』がウソになってしまうのだ。
こうしたいきさつから、最近ではイスラエルのイラン攻撃が、アメリカの協力を抜きにして、単独でも実行されるのではないか、という懸念が拡大している。それは述べるまでもなく、イスラエル国民をヒステリー状態、パニック状態に陥れているのだ。
この事態を深く懸念するペレス大統領は、ネタニヤフ首相とバラク国防相に、何とかアメリカ抜きのイスラエル単独攻撃は、避けるべきだと説得している。もちろんペレス大統領ばかりではない。イスラエル国民の61パーセントは、イラン攻撃に反対しており、イラン攻撃に賛成しているのは、27パーセントに過ぎないのだ。
ネタニヤフ首相は自分が創り上げた『イランは核兵器を造る』という幻想によって、自分とイスラエル国民に、イスラエル崩壊の道を辿らせるのであろうか。もしそうだとすれば誠に残念であり、かつ愚かなことであろう。
アメリカやヨーロパの国々のなかには、イランが核兵器を所有したとしても、それを使用することは極めて困難だ、という判断をしているふしもある。そうなるとイランの核兵器保有は、中東地域の軍事バランス上、好都合だとすら考える人たちが、増えていくということでもあろう。