アラブの春革命の成功を横取りした形で、国会議員の半数以上を獲得し、大統領の座を獲得したムスリム同胞団は、その後も意気軒昂のようだ。しかし、そうして勝ち取った大統領の座を、ムスリム同胞団員自身が、不安定なものにしつつあるようだ。
エジプトを一歩も出たことの無い、あるいはエジプトは出たことがあるが、アラブや他のイスラム世界に限定した、外国訪問経験を持つムスリム同胞団員は、限られた経験と知識のなかでしか、発想がわかない。
しかし、大統領に就任したモルシー氏は、アメリカでの生活も長く、アメリカ社会の一員として、生活してきた経験のある人物だ。それだけに彼の考え方は、他のムスリム同胞団員とは大分違う部分が、あるのではないかと思われる。
そのモルシー大統領とムスリム同胞団員との、考えの違いがいま彼を苦しい立場に、追いやっているのではないか。アメリカ的合理主義と効率を学んで、自身のメンタリテイのなかに、すっかり取り込んだモルシー大統領にしてみれば、あまりにも非合理な考えの団員が多い、と感じているのではないか。
そのためにモルシー大統領は、少し強引な進め方をし始めており、それがムスリム同胞団や世俗派の人たちの、反発を買い始めているようだ。エジプト社会では知識人たちから、モルシー的独裁とかスルタン的統治、と揶揄され始めているのだ。
もう一つのモルシー大統領の抱える問題は、軍部との関係をどう良好な状態に、維持していくかということであろう。もちろん、彼はばっさり軍部を切り捨て、軍部には国防だけを担当させ、政治には口を出すな、と言いたいところであろう。
しかし、エジプトの軍はそんな簡単な組織ではない。これまでナセルの革命以来、60年以上も続いた軍人出身の大統領による統治は、エジプトのあらゆる分野に、軍の権益を創り出していたのだ。
従って、モルシー大統領が軍を無視するような動きに出れば、軍はエジプトの経済の75パーセントを掌握していることから、政府の言うことを聞かなくなり、モルシー大統領は何も出来なくなってしまうのだ。
タンターウイ国防大臣とサーミー・アナン参謀総長を大統領顧問に就任させ、最高のナイル勲章を授与したことで、軍のトップ二人取り込んだかに見えるが、二人はそうは思っていまい。
たとえ二人がそう思ったとしても、若手将校はそうは思っていないのだ。軍から大統領を出すのは、これまで続いてきたことであり、今回もそうなるべきだ、という考えがあるのだ。そのことは、軍がクーデターを起こす可能性が、常にあるということだ。
モルシー大統領がその座に留まり続けようとすれば、今後は軍との関係を強化し、ムスリム同胞団との関係を疎にしていくことが、予想されるのではないか。しかし、それは彼がムスリム同胞団員か、あるいは他のイスラム原理主義者によって、暗殺されることを予想させるものだ。