『モルシーがタンターウイの首を刎ねる』

2012年8月13日

 ある意味では、突然の決定であった。エジプトのモルシー大統領がもう一方のリーダーである、国軍のトップムハンマド・タンターウイ国防大臣の、首を刎ねたのだ。その衝撃は少なからぬものがあろう。当然のことながら、このニュースは世界中のマスコミが、トップで扱っている。

一説によれば、シナイ半島のイスラミストやテロリストの討伐作戦に、軍が失敗したことが理由だと言われているが、それは嘘であろう。シナイ作戦で処罰されるべきなのは、モルシー大統領の方だったからだ。兵士に16人の死者を出し、軍は軍の葬式を行ったのだが、モルシー大統領は参列しなかった。そのことを非難する人士は、少なくなかったのだ。

もう一つ考えられる理由は、モルシー大統領が軍との協力のもとに、国内外政治を進めていて、なかなか旧体制は(軍)を処罰しない、という非難の声がムスリム同胞団内部や、世俗派のなかにあった。そこで何の対応もしなければ、やがてはモルシー大統領に対する、非難が拡大していく、と考えて決断したのかもしれない。

モルシー大統領はこれまで、積極的に速攻で軍に対応するのではなく、段階的に対応し、ムスリム同胞団の地歩を着実に固めて来たと思われる。そしていま、彼は機会が訪れた、と判断したのかもしれない。

その対応ぶりは十分に配慮が働いている。タンターウイ国防大臣とサーミー・アナン統幕議長を首にしながらも、彼ら二人には大統領顧問という、新たなポジションを与えているのだ。

しかし、それでことは収まるのだろうか。これから先、軍がこの措置について、どう反応してくるか関心がもたれる。予想される展開は、軍がクーデターを起こし、モルシー政権を放逐するという、最も強硬な対応だ。

しかし、それはまだ機が熟していないと思われる。大衆がモルシー政権の無策ぶりに嫌気がさし、社会が犯罪で混乱し、失業率が上昇し、生活苦に追い込まれる人たちが増えた場合、おのずからムスリム同胞団政権に対する、非難が大衆のなかで高まって行こう。

ムハンマド・タンターウイ国防大臣はその職を解かれ、当分の間は大統領顧問というステータスに、甘んじるのではなかろうか。そしてじっと時が訪れるのを、待つのではないだろうか。

エジプト大衆の不満が頂点に達し、彼らが軍にしか期待できない、と思うようになった時、ムハンマド・タンターウイ国防大臣は初めて、行動を起こすのではないか。それはあくまでも、大衆の意向に沿ってという形でだ、