『トルコの禁じ手』

2012年8月11日

 トルコはいま、極めて危険な淵に立たされている。あるいは、敢えてその選択をしているのかもしれない。それは、当初トルコが掲げていた、周辺諸国との良好な関係の拡大に、最近は敢えて逆行する動きに、出ているように思えてならないからだ。

 少し前までのトルコは、シリアのバッシャール・アサド大統領に対し、民主化を進めることによって、国内の問題を解決し国民の不満を解消し、安定した政権を維持するよう助言していた。もちろんトルコとシリアとの関係は、極めて良好なものとなり、両国間に埋設されていた、地雷の撤去も進んでいた。

 イラクとの関係も、トルコの要人がバグダッドを何度となく訪問し、良好なものとなり、トルコ企業は他国に優先して、イラクの復興に参加していた。同時に、イラクの北部クルド地区の開発では、イラク全体の手本となる、安全で繁栄した都市づくりを進めていた。

 イランとの関係も両国が相互に必要を感じ、良好な関係を築いてきていた。イランは欧米からの制裁の、強化されているなかで、トルコを唯一の外国との接点として頼りにしていたし、トルコに石油ガスの供給をすることにより、トルコを助け自らも、外貨を獲得し続けてきていた。

 しかし、これらの国々との関係が、いま一気に崩れかけている。シリアに対しては過剰なまでの介入関与が目立ち、アサド大統領はトルコを反政府派の、拠点と認識するようになっている。

 イラクについても、クルド自治政府との関係が促進するなかで、イラク中央政府との交渉をないがしろにし、クルド自治政府との取引を進めたため、イラクの中央政府はトルコに対し、激怒するようになってきている。

 イランにとってもトルコの過剰なまでの、シリア敵視が許せなくなってきている。イランにとって、シリアは中東諸国への台頭の、重要な拠点国であり、ヘズブラとの接点ともなっているのだ。

 こうした周辺諸国とトルコとの対立が、目立ってきたのは何故であろうか。それは一言で言えば、アメリカ追従が強すぎることにあろう。トルコがシリアへの対応で、過剰なまでに厳しい姿勢をとっているのは、アメリカとの協力ということからであろう。

 加えて、トルコの野心が見え隠れするのは、私だけであろうか。シリアの北部地域の相当部分は、かつてのオスマン帝国の固有の領土であった。その失った領土を、今回のシリアの内紛に乗じて、奪還しようと考えているのではなかろうか。

 しかし、それはまさにトルコにとっては、禁じ手であろう。トルコが今後、偉大な国家となっていくためには、当初掲げていた周辺諸国との、良好な関係を維持する政策を、遂行していくことであろう。

 トルコはあくまでも、当初の自国の考えに則って、周辺諸国との良好な関係を、維持していくべきであろう。欧米の意向に沿って、その意向に沿うことが自国の利益だ、という幻想を抱くべきではなかろう。

 一時的な利益を追っては、トルコは偉大な国家にはなっていけまい。トルコの短期的な利益追求や、無定見な欧米への追従は、必ずトルコを苦しめる遠因となろう。中東の国々がいまトルコに求めているのは、尊敬に値する指導国としての、トルコなのだから。

 トルコは歯を食いしばってでも、中東諸国がトルコに求めている、尊敬できる国家を目指すべきであろう。トルコはアラブ諸国の多くの大衆にとって、理想の国家であり、憧れの対象なのだ。トルコにはそれに応える義務があろう。なぜならばトルコは、偉大なオスマン帝国の末裔なのだから。