第4次中東戦争でエジプトが、イスラエルから奪還したシナイ半島は、広大な面積を有する地域だ。そこには26の異なる部族が存在し、38万人のベドウインが生活していると言われている。
シナイ半島のベドウインの数は、正確なものではなく、おおよその見当でしかあるまい。そこは長い間イスラエルに占領されていたことに加え、インフラが不整備であること、水資源が多くないことから、エジプト政府と国民からあまり強い関心を、持たれないで来ていた。
もちろん、シナイ半島のガス資源については別だし、ムバーラク前大統領が愛した、シャルムエルシェイクのリゾートなどは例外であろう。つまり、シナイ半島は広大な土地ではあるがセントカテリーナ教会、シナイ山など以外には、関心を持たれずにきたということだ。
したがって、ベドウインたちは各部族ごとに、自分たちのルールを定めて、暮らしてきたということであろう。しかし、シナイ半島の開発にエジプト政府が乗り出し始めると、シナイ半島内の状況は一変した。
ナイル川の水をシナイ半島に引き込むことや、ガスはパイプ・ラインを整備して、イスラエルやヨルダンに輸出され、外国人観光客を乗せたチャーター機が、頻繁にシナイ半島の空港に、降り立つようになった。
シナイ半島のベドウインたちはそれまでの、のどかな暮らしから急に覚まされた、と言った状況に追い込まれた。その反発と、新たに生まれた利害が、シナイ半島のベドウインたちを、立ち上がらせたのだ。
以来、シナイ半島は反政府の巣窟に変わり、そこにはギャング、密輸業者、麻薬、テロリスト、強硬派のイスラム原理主義者などが、集まるようになっていった。
しかも、彼らは多部族に分れていることから、政府は個別に交渉しなければならない面倒さがある。強硬手段を採れば、砂漠の地の利を十分知っている、ベドウインの方が有利な戦闘を、展開できるのだ。最近起こったイスラエルとの国境に近い検問所への攻撃は、エジプト政府の発表によれば、イスラミストの戦闘員によるということらしいが、ベドウインとの共闘であるかもしれない。
最近では、シナイ半島が解放区になっていることが知られ、集結してくるジハーデストの数が増えているということのようだ。
モルシー大統領はシナイ半島の安定を図らなければ、イスラエルやヨルダンへのガス輸出が困難になり、悪い経済状態はますます悪化することになろう。それが彼に、軍との接近を即しているのかもしれない。