『モルシーア大統領は就任以来・何を実行したのか?』

2012年7月30日

 エジプトの大統領選挙でムスリム同胞団の候補者であるモルシー氏は『イスラムが解決策だ』と叫んでいた。ムスリム同胞団の候補者なら当然であろうスローガンだった。

しかし、彼が大統領に就任して以来、今日までその兆候すら見えないのだ。イスラム法に従ってアルコールが禁止されると言われたが、観光業者からの強い反対があってか、未だにアルコールのサービスと販売は禁止されていない。

女性のヘジャーブ(頭や顔を覆うスカーフのようなもの)の着用も、義務付けられていない。このことについては、ブラック・ジョークのようなテレビ番組が登場している。

全身顔も全て黒い布で覆った女性キャスターと、出演者が進行する番組なのだ。これまでのエジプトのテレビ映像と比較して、どう考えても不気味としか言いようがあるまい。これはイスラム的とテレビ局側は説明しているが、ムスリム同胞団に対する、当手付としか思えない。

ムスリム同胞団は権力を手中に収めた段階で、女性のヘジャーブの義務化、銀行業務の禁止(利子はイスラム法では禁止のため)、イスラエルに対する戦争宣言、背広の着用禁止などを宣伝してきていたのだが、現実はこのいずれも実行されていない。

当然のことながら、モルシー大統領の統治に対する不満は、ムスリム同胞団内部からも起こり始めている。しかも、彼はどうやらムスリム同胞団の幹部にも相談しないで、ヘシャーム・カンデール氏を首相に任命したようだ。

あるエジプト人評論家が、モルシー大統領を非難するなかで『モルシー大統領はカリフになったつもりか?』と皮肉っていた。カリフとは預言者ムハンマドの、後継者を意味する言葉であり、ムスリム社会全体に、絶大な権限を有していたのだ。モルシー大統領の統治システムは、民主的なものではなく、イスラム教に似せたカリフ制度の、導入ではないのかということだ。

モルシー大統領の政策に対する、ムスリム同胞団の団員の不満が、出てきているのであろうか。最近エジプト国内では、ムスリム同胞団や他のイスラミストによる、暴力事件が多発している。例えば、腕を組んで歩いていた婚約者のカップルが、風紀を乱したといって殴打され、男性が死亡するという事件さえも起きているのだ。

モルシ―大統領は就任以来、何の危険なボタン(重要な決定)も押していない、と批判され始めている。軍に対しては妥協が目立ち、軍は相変わらず実質的にエジプト政治の、ナンバーワンの権力を握っている。

外交でもさしたる新路線を打ち出していない。彼に対する批判は、今後強まってくことはあっても、弱まることはなさそうだ。もしモルシー大統領が就任時に軍に対し、大ナタをふるっていれば、国民はそれを支持したはずなのだが、タイミングを完全に失ってしまった。

これからはモルシー大統領に対する批判が増え、そのなかでは軍に対して大ナタを振るおうとしても、もはや不可能であろう。そんなことをすれば、結果は逆になる危険さえあろう。タイミングを間違えることの恐ろしさが、彼を襲い始めているのではないか。