イスラム原理主義者に、十字架を背負わせるという話は、どこか間が抜けているが、エジプトのムハンマド・モルシー大統領はいま、まさにイエス・キリストが十字架を担いで、ゴルゴダの丘に登って行ったのと、同じ心境ではないか。
彼が大統領に就任して、一番最初に進めなければならないことは、経済改革であろう。革命騒ぎのなかで、大幅に減少した外貨準備(現在150億ドル)を引き上げなければ、エジプトの通貨は下がり続けるかもしれない。
そうなると、外貨の借り入れも、外国企業の投資呼び込みも、上手く行かないだろう。現段階で、トルコは無制限の経済協力を言い出してはいるが、それには時間がかかることであろう。トルコの企業が進出してくる分野を探し、調査をし、投資するまでには、一定の時間がかかるということだ。
そして、その場合重要なのは、エジプト社会が安定し、安全であるかということがポイントとなろう。デモが頻発したり、犯罪が増える国に、進出ていく企業は少ないからだ。
もう一つのポイントは、早急なエジプト国民の、生活レベルの向上であろう。そのため、ムハンマド・モルシー大統領はすでに、最低賃金の引き上げ(200ポンドから300ポンドへ)を決定し、国家公務員の給与も15パーセント引き上げると語っている。
その財源は何かと聞かれたら、彼は答えられないのではないか。外国からの援助にすがるしかあるまいが、その援助をしてくれる国は、極めて限られているのではないか。
エジプトはいま、若者層の失業が25パーセントと高く、大きな問題になっており、彼らは経済改革の効果がないと分かれば、直ちにデモを始めるであろう。若者層の割合が30歳以下で、全人口の80パーセントを占めているのだ。
1日1ドル以下で生活している人たちが、エジプトには1400万人もいるというのだから、そのひどさが想像できよう。あるいはほとんどの日本人には、そのことがピンと来ないかもしれない。彼らが口にできるのは、水道水とパンと野菜と、豆の煮潰したものであり、それが1年を通じての食事なのだ。
対外債務の支払い問題も、頭痛の種であろう。利子分だけを支払っていくとしても、疲弊したいまのエジプトには、極めて厳しいものにいなっているはずだ。観光業は閑古鳥が鳴き、失業者は日に日に増加している。
若者がデモやストを計画しても、何の問題の解決にもならないのだが、そうでもしなければ、気が収まらないということだろう。ムハンマド・モルシー大統領は打つ手のないまま、じりじりと危険な淵、に向かっているのではないか。